第三幕:崩壊。そして……。  〜魔物娘の性活〜

「今日の交わりは、凄かったね」
 海中での交合から戻る頃には、既に海上は日が暮れかけて海全体が橙色に染まっていた。
 アクトとレイは小舟に戻ると、それぞれ自分の衣服を身に付ける。名残惜しかったが、それぞれ住処へと帰らなければならなかった。
「……おれ、やっぱりレイと一緒になるよ。一日でも早く、そうしたい」
「でも、お母さんは」
「相談してみる。貰った魔物化薬の事もちゃんと話して」
「使い方、気を付けてね。純正のサキュバスの秘薬と違って、あれは私の魔力を元に海の魔力とかを混ぜ合わせて作った不安定なものだから」
「何になるかは分からない?」
「そう。一番可能性が高いのは基本の種族であるサキュバス。次いで、海の魔力の影響を受ければネレイスの可能性もあるかな。あとはアクトのお母さんの適正次第」
 着替えを終えたアクトは、暮れはじめた空を見上げて息を吐いた。
「魔物娘になったら、愛する男の事が第一になるんだよな」
「うん」
 ならば母は自分を棄て、顔も知らない自分の父の所へ飛び去ってゆくのだろうか……。
 冷え始めた夕暮れの海風に、少し身体が震える。
 着替えを終えたレイが腕を絡めてきて、その体温が無性に嬉しかった。
「あのねアクト。もしアクトのお母さんとアクトがそう言う関係になっても、私は別に、気にしないからね」
 アクトはまじまじとレイの顔を見つめる。一体何を言われているのか、よく分からなかった。
「だから、本当は私だけのアクトで居て欲しいけど、アクトのお母さんも、全てを犠牲にしてでも愛する男との子供を求めた、愛に生きていた人だし、何よりアクトを産んでくれた人だし、私も尊敬できるって言うか、だからアクトとお母さんが愛し合う事になったとしても」
「いや、いやいやいや。それは無いだろう。母さんは多分、父さんの所に行ってしまうだろうし」
 アクトは苦笑いしながら、続けた。
「それにまだ魔物になるって決まったわけじゃ無い。母さんの顔を見たら、俺の決意も鈍るかもしれないしな」
「そっか。そうだよね」
「そうだよ」
 二人は見つめ合い、そして微笑みを交わし合う。
「また明日ね」
「あぁ、また明日」
「明日もいっぱいいっぱい、しようね」
「あぁ、また海の中でしよう」
 口づけを交わすと、レイは海の中へと戻っていった。
 そして一人になったアクトは、家へと向けて舟をこぎ出した。


 思ったよりも海上に長く居続けてしまったため、家に着くころには既に日が暮れきってしまっていた。
「ただいま母さん。遅くなってごめ……え」
 声をかけながら玄関の扉を開いたアクトは、思わず息を飲んだ。
 これだけ暗いというのに灯り一つ付いていなかった。眠っているのかと思いベッド近くのランプに火を灯すが、ベッドの上はもぬけの殻だった。
 夜の闇が胸の中に忍び込んできたように、身体の芯が冷たくなる。
「母さん……。母さん!」
「ここよアクト。おかえりなさい」
 声のした方を振り向くと、大きな姿見の鏡の前に母親の姿があった。
「どうしたんだよ母さん、灯りも付けずにそんなところに座り込んで……え?」
 改めて灯りを向けて浮かび上がった母親の姿に、アクトは全身を硬直させる。
 最初は上半身裸で、下半身だけ紅色のスカートを穿いているのかと思った。
 そんな格好では風邪をひいてしまう。と口を開きかけたところで、そうではないことに気がついた。
 彼女の下半身を覆っていたものはスカートではなかった。それはアクトのよく知る、普段から見慣れた、蛸の形の八本の触手だった。
 そこに居たのは母親であって、もうアクトの知っている母親でなかった。彼女の姿は既に、レイと同じモノへと変化してしまっていた。
「どうしたの? そんな驚いた顔をして」
 近づいてくる母親の顔も、最近までのやつれたものでは無かった。それはアクトが幼い頃に憧れた、若さと活力に満ち溢れた美しい女の顔だった。
 その肌も艶やかで、頬に差しのべられた指も、子供の頃に感じた柔らかい指だった。
「母さん、なのか」
「さぁ、どうかしらね。確かに私とあなたは母と子の関係であるけれど、今はそれ以前に、魔物と人間。いえ、雌と雄、という関係かもしれないわね」
 手の平に顔を包み込まれても、触手が四肢に絡み付いても、アクトは動く事が出来なかった。
 幼い頃、この人に愛されるためなら何でもしようと、世界で一番愛していた人が、まさにその全盛を越える程の美しさで自分に迫っている。それでも母と子である以上、拒絶しなければならないはずだったが、生まれてからずっと母と子の二人きりで生きてきたアクトにとって、思慕と恋慕の入り混じった想いを断ち切る事はそう簡単には出来なかった。
 母の顔が近づいてくる。けれどもアクトにとってそれは既に母であるとともに、別の女のようにも感
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