翌日も晴天に恵まれていた。
アクトは目を覚ますなり、母親の食事の準備や洗濯などを始める。
家事は少々面倒なことではあったが、しかし家族も母と自分の二人きり。炊事も洗濯も、始めてしまえばあっという間に終わってしまった。
さて、これからどうしようかと考えるが、晴れていれば結局思いつく事は一つきりだった。
釣りの用意を整え、いつものように母親に声をかける。
「それじゃあ行って来るよ。母さん」
「あ、アクト……」
アクトは振り返り、母親の顔を見る。
いつもと同じ母の顔だ。美しいが、少しやつれている。死相が出ているというわけでは無いが、やはり病人らしい弱々しい顔つきだ。
少し心配しながらも、立派に働きに出るようになった息子を少し誇らしく思っているような、そんな表情ではあったが、アクトはどこか違和感を覚えた。
何がどう、と上手く言葉にはならないものの、妙に気持ちが落ち着かなかった。
「母さん。何か心配事か?」
「ううん。なんでもないわ」
「大丈夫だよ。日が落ちる前には帰ってくる」
「そうね。分かったわ。私はゆっくり、養生させてもらうわね」
「あぁ、早く元気になってくれよ。母さん」
アクトは手を振って自宅を後にした。何か引っかかるような気はしたが、結局それ以上の事は分からなかった。
いつも通り、新鮮で精のつく食べ物を食べさせてやることが一番だろう。アクトはそう結論付け、小舟で海へと漕ぎ出した。
海の上には、アクトたちの乗った小舟以外に誰の人影も無かった。
青い空に、陰影のはっきりとした白い綿雲が浮かんでいる。そんな空を、時折ウミネコが鳴きながら横切ってゆく。船の下では大小さまざまな魚が行き交い、時折銀色の煌めきを残してゆく。
磯風が、事後の火照った肌に心地よかった。
小波が小舟を揺り籠のように揺らし、波の音が子守唄のように静かに響く。
思わず微睡んでしまいそうな穏やかな昼下がり。しかしアクトを包み込んでいるのは、そんな心地よさとは対極にある気持ち良さだった。彼に襲い掛かっていたのは睡魔ではなく、文字通り淫魔だった。
アクトの下半身に、一本一本が大人の脚ほどの太さのある八本の蛸の触手が絡み付いていた。更にその触手の先端はアクトの男根にねちっこく絡み付いて、ヌチャネチャと音を立てている。
「あんなに激しく愛し合ったのに、まだ勃起しっぱなしなんて。……アクトの、えっち」
「レイが、休ませて、くれない、だけだろ」
レイはアクトの股間の前を陣取り、上気し切った火照り顔に、にやにやと淫らな笑みを浮かべていた。
二人とも行為の後で、丸裸だった。
軟体の触手はひんやりとしていて、ぬるぬると肌に絡み付いて来るだけで鳥肌が立つほど心地よかった。それがぐちゅぐちゅと脚全体を覆い尽くしているのだから、まさに下半身がとろけてしまうような感覚だ。
おまけに男として一番敏感な部分にはそれぞれ八本の触手の先端が集中し、くすぐるように、揉みしだくように、時に強く、時に弱く刺激を加え続けられている。
一方では滑らかな粘膜で優しく撫でられ、もう一方では肉厚な吸盤で跡が付くほど吸われる。彼女のもたらす刺激は、まさに人外の、人知を超えた快楽だった。
射精しそうになるたび、刺激が睾丸をやわやわと撫でられる程度にまで弱められる、そして余裕が出てくると再び締め付けられこねくり回されと、終わりの無い官能の責め苦を味わわされていた。
度重なる性交の末、アクトの弱点は既に全てレイに握られてしまっていた。絶頂を迎える限界点の刺激やタイミングまで含め、全てだ。
レイはその知識を総動員し、アクトに逝きそうで逝かせないギリギリの快楽を与え続けていた。そうして蕩けて歪む彼の表情を愉しんでいた。
「アクトの気持ち良さそうな顔。可愛い」
「レイ。意地悪するのは、もう」
「ずっと見ていたいなぁ。昔は全部可愛かったけど、今は逞しくもなったよね。少し筋肉も付いて、筋肉質な身体に抱きしめられるのも、犯されるのも大好きだけど、でもやっぱりアクトの射精を我慢してる顔、快楽に耐えているこの顔、たまらなく可愛くて大好きだなぁ。逞しくなったからこそ、余計に可愛さが際立つっていうかぁ」
「それだったら、おれだって」
アクトは脚に絡み付いている触手の一本に手を伸ばす。全て筋肉で出来つつも柔らかさを失わないその表面に、触れるか触れないかというくらいの力加減で触れ、撫で回す。
途端、レイがびくっと身体を震わせ、表情から余裕が無くなる。
アクトは指を皮膚から、吸盤のあたりへと動かしてゆく。吸盤の付け根をくすぐるようにいじくり、吸盤の中にカリカリと爪を立てる。
レイの表情が蕩けはじめ、雌の淫らな匂いが漂い始める。
何も、相手の弱点を知っているのはレイだけでは無いのだ。アクト
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