ソルジャービートル達の作戦は、単純明快だった。
『仲間を呼ぶ』
本当に、ただそれだけの事だった。
そんな事で本当にこの状況がひっくりかえせるのか甚だ疑問ではあったが、一度信じた以上、サップはもう後戻りする気は無かった。
ラファ達三人は腰に結わえつけていた荷物袋からいくつかの小袋を取り出した。
そして小袋の結び目を少しほどき、壁に空いた大穴から四方八方に向けて投げつけ始めた。
「何をしているんだ」
「この場所を教えるために、フェロモンを撒いている」
「この袋には、魔物娘にしか分からないフェロモンが詰め込まれているから」
なるほど、とサップは感心する。確かに、昆虫達は目に見えない何かで意思疎通をしていると聞いたこともあった。魔物娘達にも、似たような意思伝達の手段があるのだろう。
「姉さん達、あとはこれを上空に」
チェファが手渡したそれを、ラファとヘラは言われたとおりに空高くへ向かって放り投げた。
空中で袋が開き、中に詰められたものが舞い散る。それは空気に触れた途端にきらきらと煌めきながら夜空を漂った。
「あれは」
「特別製の鱗粉袋です。しばらく輝きながら空に留まるので、場所を知らせるのにはうってつけなんです」
「そうなんだ。でも、そんなすぐに来てくれるのか。こんなに夜遅くに」
「夜だからこそ、来るんですよ」
サップはわけが分からず首をかしげる。
「だってこの信号は、ここに雄が居るよ、と言うお知らせなんですから」
結論としては、チェファの言った通りになった。
フェロモンを散布してさほど時間も経たないうちに、国の上空には蜂や蠅や蛾等の魔物娘が飛び回り始め、地上にも蜘蛛や蟷螂等が集まり始めた。
程なく、小さな集落は魔物娘でいっぱいになった。
集落のそこかしこに、様子を見に家から出てきた住人と、侵略者である異国の兵士と、雄を求めてやってきた魔物娘が入り混じる。
まるで祭りの夜のように騒がしく、混沌としていた。
混乱に乗じ、サップ達は地上に降りた。そして群衆に紛れながら周りの様子を伺った。
こんな夜中に無数の魔物に集まられては、まるで夜襲を仕掛けられていると誤解されるのではないか。サップは不安に思っていたが、しかし現実は予想を遥かに上回っていた。
月が煌々と輝く夜空から、きらきらと七色に煌めく雪が降っていた。飛び回る魔物娘が羽ばたく度に振り撒かれる鱗粉が、ゆらゆらと揺らめきながら雪のように降り注いでいるのだ。
にこにこと笑顔を振りまき、人間達に対して気さくに楽しげに話しかけてくる彼女達魔物娘の姿は、多少昆虫の特徴は強いものの妖精のように見えない事も無い。
とても凶悪な化け物の強襲には見えなかった。遊び好きな妖精達が連れ立って迷い込んだようにしか思えなかった。
集落の住人たちも、異国の兵隊達も、呆然と夜空に、魔物娘達が作り出した光景に見入っていた。みんな魔物娘の姿に見惚れていた。
夜空を見上げ、通りをきょろきょろと見回す住人たちの顔に浮かんでいるものは、好奇心はあっても恐怖感は無いようだった。
兵士達でさえも、最初こそ武器を携えて居たが、おとぎ話のような風景に当てられたのか、それとも圧倒的な魔物娘の数に抵抗を諦めたのか、すぐに呆然と立ち尽くす者ばかりになっていった。
そのうち、一人の男が魔物娘と連れ立って路地裏に入っていった。そして、まるで誰かがそうするのを待っていたかのように、堰を切ったように他の独り身の男達も魔物娘に誘われるままいずこかへと消え始める。
その中には、魔物と敵対しているはずの兵士達の姿もあった。
もしかしたら、彼ら自身も実際に魔物娘の姿を見るのは初めてだったのかも知れなかった。
恐ろしい怪物だと言い聞かせられていた魔物娘。しかし実際に目の当たりにするのは、人外ではあるものの滅多にお目にかかれない程の美しい女性達でもあった。そんな彼女らに、こんな美しい情景の中誘われたら、男としては付いて行ってしまうのも理解出来ない事ではない。
「一体どうなっているんだ」
「モスマン達のおかげ」
「あの子達が、喜んで鱗粉を振りまいているから」
「モスマンの鱗粉には、思考を柔らかく単純にする効果があるんです。彼女達自身、いつも大好きな人間の事ばかり考えているのですが、鱗粉を吸った人も同じようになるんです。
いつも鱗粉が出ているわけではありませんが、今日は旦那様になってくれそうな男の方がいっぱいいて興奮しているみたいですね」
「へぇー」
空を舞う魔物娘達も、男達に目星をつけては地上に舞い降り、抱き付いて捕まえてゆく。
時折、まだ武器を携えた兵士達が襲い掛かってくる事もあったが、魔物娘達の敵では無いようだった。
サップ達に襲い掛かってきた兵士達も、そのたびラファとヘラに簡単にいなされ、そ
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