前編:キモオタ童貞の俺が天使にデートに誘われて童貞を奪われるはずが無い

 放課後の教室。スマホでエロゲの予約をしながら、俺は何気なく考えていた。
 二次元に比べて、三次元の女はどうしてこうもクソなのだろうか。
 人の事を外見でしか判断しないし、群れを組んで馬鹿にしてくるし、デカい声でわめくし、愚痴を延々と垂れ流すし、感情的だからちょっとの事ですぐ泣くし、悪いのは自分じゃないみたいな態度取って来るし、目が合っただけで嫌な顔をされるし。
 同じ事をしても顔がいい男は許されるのに、不細工は犯罪みたいな嫌がられ方をされる。
 中身が無くたって話が上手い男がやたら褒められてモテるし、しゃべらなきゃそれだけで暗い奴だと思われる。
 それにどこかで、男を財布か何かだと思っているに違いない。
 人間だから毛も生えるし、ウンコもするし、汗かけば臭うし、香水臭い女も居るし。
 それに比べて二次元は最高だ。
 みんな可愛いし、声も(ボイス付なら)可愛いし、泣き顔も可愛いし、優しい子が多いし、優しくすれば好きになってくれるし、目が合ったら微笑んでくれるし。
 金も掛からないし、時間だって三次元程かからない。
 確かに二次元キャラは決まったテキストしかしゃべらないし、触れないし、温もりも無いし、いざという時に助けてもくれない。
 けど、結局三次元の女だって同じ事なら、可愛くて理想的な二次元の方がいいに決まっている。
 エロゲとか、リア充の日記を読んでいるだけではないかという考え方もあるかもしれないが、それは違う。主人公に感情移入できて、可愛いヒロインに恋する事が出来る。物語は時に胸を熱くさせるし、時に涙腺を潤ませてくれる。現実などというクソゲーとは比べるべくも無いのだ。
 ヤリチン男のブログなんて読んでいたら、胸が悪くなって死にたい気分になるだけだ。
 二次元は最高。三次元は最低。比較するまでも無い。魔物娘という異世界の女達がこの世界にやって来たところで、その真理は変わらないのだ。
 魔物娘。人間の身体を基本に、ファンタジーモノのゲームやマンガの女性型モンスターのような、鳥獣や昆虫の手足を持った女性達。ここ最近異世界からやってきたばかりの、新人類。
 彼女達は本来、図鑑世界という異世界の住人だった。本来その存在さえ知り得るはずの無かった我々だが、科学の進歩によって異世界が発見され、更に二つの世界の研究機関が協力し合う事で、通り道まで作り上げることが出来たのだった。そして今では、あちらからこちらへ、こちらからあちらへと、交流が盛んに行われるようになっている。と、先日ニュースでやっていた。
 ニュースでは他にも、双方の文化の違いや倫理観の溝を埋めるための努力がーとか、科学と魔法の積極的な交流がーとか色々言っていたが、結局彼女達も女である以上、この世界の女と何ら変わらないに違いないのだ。
 どうせブサメンよりフツメン、フツメンよりイケメンの方が好きに決まってるし、オタク趣味よりはアウトドア派の方が好まれるに決まっている。
 同じクラスにも魔物娘は居るけれど、キモいオタクの俺は当然のように話し掛けられた事も無かった。
 俺はエロゲの予約を終えたスマホから顔を上げて、クラスメイトの魔物娘のグループの方をちらりと盗み見る。
 まだ女子高生なのに、みんなグラビアアイドルみたいにスタイルがいいし、顔もテレビの(と言ってもテレビ自体そんなにもう見ていないのだが)トップアイドルみたいに可愛い。
 でも、昆虫の手足や爬虫類の身体は見ていてぞっとするし、獣毛が生えているのも獣臭そうだ。
 やっぱり二次元が最強だな。
 そんな事を考えていると、ふとグループの中の一人とばっちり目が合ってしまった。
 確か名前は、天野唯。肌は褐色で、髪はピンクがかった金髪。体つきは小柄で、胸も他の魔物娘に比べれば小さい方だが、それでもブラウス越しでも目に付くくらいには大きい。
 一応魔物娘らしいのだが、目立つような魔物らしい特徴は見当たらない。あるとすれば頭の上にハート形の輪っかっぽい髪飾りが付いているくらいだろうか。
 確か、種族はフーリーとかいう天使の一種だという話だったか。
 あまり笑ったところを見たことは無いが、顔は可愛いタイプで、目が大きくてほっぺたも柔らかそうで、グループの中では一番のタイプだ。
 そんな彼女は、俺と目が合うなり、睨むような険しい表情になる。まさか俺の失礼な考えを読まれたわけでは無いだろうし、ブサイクなオタクと目が合ったのが不快だったんだろう。やっぱり人間の女も魔物の女も変わらないのだ。
 さて、帰ろう。週末の新作発売に向けて、まずは前作のおさらいだ。
 机の上に広げたままだった筆記用具や教科書を片付け、鞄に入れる。ノートを片付けるべく掴もうとした、その時だった。
 バンッ。と勢いよく机に叩きつけるようにして、誰かの手が俺のノートを抑えた。
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