砂漠の旅は厳しい。
昼間は暑く、夜は寒い。何度往復した道であろうと、吹き付けてくる砂交じりの乾いた風には辟易する。
僕は外套の前を締め直しながら、ラクダの上から目を凝らして周りをよく見て回る。同じような風景ばかりで下手をすると道を見失いかねないのだ。
遠くにオアシスの緑と青が見え始め、僕は安堵の息を吐いた。
泉近くのヤシの木にラクダを繋ぎ止め、僕は泉の水で顔を洗った。
水面には子供っぽい僕の顔が写っている。頭が冷えると、考えも落ち着いてくる。
教国や中立国、砂漠の都を回って商売をしているけれど、いつまでこんなことを続けられるんだろう。同い年の人間にはもう大きな店を持っている奴も居るのに。
いかんいかん。僕は頭を振って余計な考えを払う。
ここまでくれば旅は折り返し。日が暮れるまでには目的地である砂漠の都に付けるだろう。今回の商品は砂漠の都じゃ手に入らないものだから、きっと高く売れるはず。
いつかは僕だって店を構えて、お嫁さんを貰いたいし。そのためには頑張るしかない。
そういえばこの先はこの間ギルタブリルを見かけた道だ。気を引き締めてかかるためにも、とりあえず今は体を休める事に専念しよう。
一息ついて泉の向かい側に目をやると、顔なじみのサリアが居た。
こっちに気が付いて大きく手を振ってくれている。僕も手を振りかえした。機嫌がいいのだろうか、彼女は楽しそうに蛇の尻尾をくねらせていた。
褐色の肌に、蛇の下半身を持つ魔物、ラミア。
サリアはこのオアシスの近くに住んでいるラミアだった。魔物と言っても人を殺して食べる事はしない。昔はそうだったらしいのだけれど、僕の生まれたころには魔物はみんな人間並みの知能や感情、そして女性の身体を持っていた。
ただ、彼女たちの人間の男性に対する気持ちは強いのだという。僕も魔物娘と言えば男を見つけたら見境なしに襲い掛かるものだと思っていた。だけどそれは誤解だったらしい。なぜなら、僕とサリアはそれなりに知り合ってからしばらく経つけれど、言葉を交わすことはあっても、強引に迫られることもなかったからだ。
こちらとしては、彼女はすごい可愛いし、あんな子が嫁になってくれたらと思ってはいるんだけど。いろいろアプローチはしているつもりだけど、どうやら僕はお眼鏡には敵わないらしい。
ため息が出てしまう。やっぱり第一印象が悪かったんだろうか。
あれは初めて砂漠を旅していたころの事だった。
まさにこのオアシスに向かう道の途中で、女性が行き倒れているのを見つけたのだ。助けなければと近づいてみれば、その女性は下半身が蛇で、つまりそれがサリアだった。
砂漠ではラミアやギルタブリルと言う魔物が出現する。旅をするときには彼女たちにくれぐれも注意しろと言われていた。
砂漠を生きる場所とするラミアがどうしてこんなところで倒れているのか疑問ではあった。もしかしたら倒れたふりで助けに来た男を襲うつもりなのかもしれなかった。
だが本当に倒れていたら。この灼ける砂漠で長時間も日向に晒されていては命に関わる。
僕は彼女を抱き起した。
彼女は真っ赤な顔をして目を回していた。触れる肌の温度もかなり高かった。
慌てて彼女をラクダに乗せてオアシスへの道を急いだ。
運よくオアシスにすぐに付き、木陰の下に彼女の身体を横たえ、しかし僕ははたと迷ってしまう。
運んだはいいが、この後どうすれば彼女を助けられるのか。泉に入れてしまっては急激に体温が下がって危険かもしれない。
彼女は苦悶の表情で小さく呻き声を上げる。考えている時間も無い、僕は泉の水で濡らした布で彼女の身体を拭いてやる事にした。
少し幼さの残る顔、首元、腕、わきの下、胴体。そして蛇の下半身。順に拭いていく。
他意は無かったのだが、薄い生地越しに感じる彼女の肌は見た目よりも柔らかくてどぎまぎした。
自分の下半身に血液が集まりそうになるのを、何とか平常心でこらえながら彼女の身体を拭き続けた。
僕は蛇が嫌いでは無かった。体をのたくらせるたびに不思議な光沢を放つ鱗に覆われた体を美しいとさえ思っている。魔物娘の身体にも昔から興味はあって近くで見てみたいとは思っていた。
彼女の身体もまた美しかった。木漏れ日を照り返すその鱗に覆われた下半身。つるつるとした鱗の感触の下に感じる柔らかさ。そして彼女を苛む熱さ。
早く助けてやりたくて、僕は必死になった。
彼女のまつ毛がピクリと動き、目が開いた。
向こうからしてみれば、気がついてみれば見知らぬ男に体を撫でられているという状況だ。しかも運悪く僕は彼女の胸元を拭っている最中だった。
驚かないわけがない。彼女は悲鳴を上げて僕の身体を突き飛ばし、そして僕は頭から砂に突っ込んだのだった。
「あ、あなたは何な
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