承:舌で味わいむしゃぶりつくし

 週に一度の休日である日曜日。出勤の時間を気にしなくていい安らかな眠りから目覚めて二時間後、俺は駅前の公園で人が来るのを待っていた。
 起きた時には一日ダラダラと寝て過ごしたいと考えていたというのに、どうして自分は外に出ているのだろうか。週にたった一度の、緊急の日曜出勤も考えればもっと数の少なくなる貴重な休日に、なぜ自分から呼びつけてまで人に会おうとしているのだろうか。
 自分でも自分が分からなかった。自分らしくないとも思った。理由を答えなければならないとすれば、たまたま今日はそういう気分になってしまった、とでも言うしかない。
 不気味なくらいに身体の調子が良くて、じっとしていると逆に気分が落ち着かなかったのだ。何かしたくていてもたってもいられずに、たまたま目についた物から思い付いたアイデアをよく考えもせずにそのまま行動に移してしまった。本当にただそれだけだった。
 考えてみればこんな事をしてしまって良かったのかとも思ってしまうのだが、しかし既に連絡を入れてしまった以上、時すでに遅しだ。
「あ、おーい。厚司さーん」
 声のした方を振り向くと、俺の待ち人が遠くから手を振りながらこちらに駆けてくるのが見えた。
 へそ出しのちびTの上に半袖の薄手のパーカーを羽織り、下はホットパンツだけと言う少し露出過多の格好。しかし背が低めで身体もほっそりとしているせいか、扇情的と言うよりは、どちらかと言えば健康的で活発な色香を感じさせる。
 今日は癖毛を一つに束ねて結い上げていて、衣装も髪型も昨夜とは違っていてまるで別人のようだった。
 半袖から覗く白い肌が眩しい。昨夜も思った事ではあったが、改めて日の光の下で見ると彼女の肌は本当に艶やかで美しかった。まつ毛も長く、目鼻立ちもはっきりとしていて、都会でもなかなか目に掛かれないような美形だった。
 彼女、チコは俺の元までたどり着くと、息を整えながらにっこりとほほ笑む。
「ごめんね。待たせちゃった?」
「いや、俺も今来たところだよ。非番のところを呼びつけてしまって悪かった」
「ううん。気にしないでよ。でもまさか翌日に連絡貰えるなんて、嬉しいなぁ」
 朝、目が冴えて二度寝が出来なかった俺の目に留まったのが、チコにもらった名刺だった。
 それがきっかけで昨日のお礼がちゃんと出来ていなかった事を思い出し、翌日こんなに快調になってしまうマッサージに感動した事も伝えたくて、彼女に会って話がしたくなってしまったのだった。
 そして、気持ちが昂っていたのだろう、俺は思い付くまま彼女の連絡先に電話をしてしまっていた。
 あいにくと彼女は今日は店の当番では無かったが、他に予定も無いとの事だったので、こうして街中で会う事にしたのだった。
「それじゃあ、どうする? ゆっくり話が出来るところの方が俺としてはありがたいが」
「じゃあ、ちょっと早いけどお昼ご飯にしない? ボク、ちょっとお腹が空いちゃって」
 俺は時間を確認すべく、駅前の大スクリーンを見上げる。
 何のCMなのか、スクリーンには鳥の翼を持つハーピーや、獣耳の狐娘や猫娘、下半身が蛇になっているラミアの女の子なんかが映って、楽しそうに何かの紹介を行っていた。
 元はゲームかアニメかマンガか、詳しくはよく知らなかったが、魔物娘と言う奴らしい。最近ではテレビやネットでもちょこちょこと見かけていた。
 ともかく時間の確認が先だ。見れば、確かに昼食には少し早かった。だが今のうちに飯の食える店に入っておいた方が混み出す前でいいかもしれない。
「そうしよう。何か食べたいものはあるか?」
「えっと、その、焼き肉とか」
 チコはちょっと恥じらいながら、上目づかいで俺を見た。
「あは、初めてのデートで焼き肉なんてあんまりかな。でも、すっごく美味しいお店知ってるんだ。スタミナも付くし、厚司さんももっと元気になれると思うし」
 俺はちょっと身体が熱くなってしまう。考えてみれば、男と女が二人っきりで会っているのだからデートと言えないわけでは無い。いや、彼女がそのつもりで来たのであれば間違いなくデートだろう。
 そう思うと何だか急に緊張してしまう。
「だ、ダメ?」
「い、いや。いい。そこにしよう」
 デート? 俺なんかが? 毎日仕事に追われるばかりで、女性との接点も無くなって久しいこの俺が? こんな可愛い女性と? 偶然に出会った翌日に?
 気後れしてしまう。チコは、俺が出会ってきた中でも多分一番可愛い女性だ。優しいし、明るい。まだそこまで言葉を交わしたわけでは無いけれど、話していると楽しい気分になってくるし、そう簡単に出会えない"いい女"と言う奴だ。
 俺なんかでは釣り合いが取れない。あと下世話な話だが、幼すぎる容姿の彼女を連れ回すとなると、何だか援助交際か何かと思われそうで……。
「急にどう
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