おまけ(王様の日常)

 枯れ果てた砂漠が緑溢れる豊かな大地になったあの日以来、僕は地下の遺跡の中に暮らしている。ケプリ達の匂いや想いが染み付いたこの遺跡が、僕にとってはとても居心地が良かったのだ。
 とはいえ僕等だけで住むには広すぎるので、遺跡の一部は街のみんなにも解放している。地下一階は各所に天窓も付けたので、かつてより明るく、風通しも良くなった。おかげで子どもが遊んでいたり、たまには歴史や魔物の学者が調査に来ていたりするほどだ。
 街の運営に関しては、教団がやって来る前の、かつての長老や議会を復活させて政治に慣れた彼等と共同で行っている。
 最初は議会の皆からケプリに選ばれた僕が一人で民の上に立つべきだと言われたのだが、僕自身まだ経験も知識も無く、見た目も若いので、表立った首長になるには今はまだ早すぎると断った。
 いずれはそう言う立場になるかもしれないが、僕としてはもうちょっとこのままを継続していたかった。議会に出席する事で政治を勉強したいと思っていたし、それ以上にみんなでわいわい話しながら街の事を決めるというのは、思ったよりも面白かったのだ。
 街の運営は、優秀なケプリ達の助けのおかげもあって大した苦労も無く進んでいる。驚きだったのは、どのケプリも政治的な補佐能力が高かった事だ。あらゆる形で王を支える存在だとは聞いていたけれど、ここまでだとは思わなかった。
 議員の面々が議会の度に口にする「我々の仕事が無くなってしまいますな」という言葉も、どこまでお世辞なのか分からないくらいだ。
 と言うか実際に最近では本当にお世辞では済まなくなってきていた。ケプリ達の優秀さもさることながら、国の中が平穏すぎて議会で決めるべきこともほとんど無くなってきているのだ。
 みんなが仲良く、不満もあまりない事は喜ばしい事だったが、議会から政治を学ぼうと思っていた僕からするとちょっと拍子抜けだった。
 一応ケプリ達からも直接政治を教えてもらおうと試みてはいるが、彼女達と一緒にいると途中から勉強どころではなくなってしまうので、効果のほどはお察しというところだった。
 結局僕がまともに出来る仕事といったら夜のお勤めくらいのものだった。とはいえ愛しいケプリ達と床を共にしているだけなので、仕事なんて言っていい物かは何とも言えないのだけれど。
 少し心苦しい物の、しかし僕のような生活も今のこの街ではそれほど珍しい物でも無くなってきていた。土地の魔界化、住人の多くの魔物化の影響で、どうやら働く事自体がそこまで必要とされなくなってきてるようなのだ。
 魔界化の影響で土地そのものの生命力も強まったため、食べられる木の実を実らせる果樹も大量に増え、農作業という程の事をしなくても作物が簡単に育てられるようになった。
 そしてこの土地に住む人間もまた、魔物化してしまうと食事や睡眠が必要なくなってしまうのだ。代わりに恋人との性交が欠かせなくなり、性欲も増大するらしいが、不満らしい不満は聞いたことが無かった。
 おかげでこの国には飢える者は一人も無く、働かなければ生きていけないという者も居なくなった。
 中には夫婦の愛によって品質の変わる作物を育てる事を生きがいにしていたり、外の世界と物品をやり取りする事に興味を持った一部の人達が労働に精を出していたが、大体の住人が精を出しているのは労働などでは無く愛しい妻の雌穴の中といったような状態らしかった。
 気掛かりだった元教団の住人たちとも、特に軋轢は無かった。
 最初こそ「酷い仕打ちをしてしまった」と謝罪を繰り返していたが、今はお互いそんな気も使わない間柄になっていた。砂漠の民の傷や失われた物などは、街が魔界に変じた時に不思議と全て元に戻っていたおかげでもあった。
 魔力の影響か、それともどこかで吹っ切れたのか、姿の見えない神より自分の欲求に素直になった彼等は前よりずっと穏やかになり、以前から住んでいた砂漠の民に溶け込んでいた。
 むしろ働いている人達に対して、そんな事をせずに夫婦で愛し合うべきだと逆に説教をしているくらいだ。
 そうそう、教団といえばこの話もしておかなければならないだろう。
 実はこの街が魔界化したその日、僕達が集まっていた避難所とちょうど街の反対側に、所属不明の親魔物派の傭兵団がこの街を解放しにやって来ていたのだ。
 教団の手により去勢などという蛮行が行われていると聞き、居ても立ってもいられずに武器を手に取った勇敢な戦士達だったらしい。しかしその時は既に魔界化が成っていて、僕達が出会った時には、彼等は街の様子が聞いていたのと大分違う事に驚いて、戸惑っていた。
 少し悪い事をしてしまったとは思うとともに、見ず知らずの僕達の為にこんな僻地まで駆けつけてくれた彼等に対して感謝せずにはいられなかった。
 街の様子を見て回った彼等の反応
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