ケプリ達の王様になって欲しいという申し出に、僕はすぐに答えを返す事は出来なかった。ケプリ達の王などと言われても、雲の上のような、それこそ伝説の存在にしか思えず、想像する事さえ難しかったのだ。
王の姿を想像する事も出来ないのに、自分が王になるなんて考える事も出来なかった。
それに王家の血を継ぐわけでも無く、はたまた貴族でも無い平民の生まれの僕では……。今や人間扱いさえされずに家畜同然に暮らしているような僕では、仮に名前だけだとしても王と呼ばれるに相応しい人間だとも思えなかった。
しかし、だからと言って狭くて汚い納屋に帰って大人しくペニスを切り落とされるのを待っていられるのかと言えば、そういうわけでも無かった。
ただ一度でいいから全てを失う前に想いを遂げたいと思って納屋を出てきた。生まれてきたのだから、一度くらい愛というものを知りたかった。
でも実際に愛を交わしてしまったら……、手に入れたものがどれだけ貴重なのか、奪われようとしているものがどれだけ取り返しのつかない物なのか、身を持って実感してしまったら、もう大人しくそれを差し出すなんて出来なかった。
アズハルを失いたくない。アズハルとの交わりをこれで終わらせたくない。もっともっと一緒に居て、何度も喜びを分かち合いたい。
そのためには黙って去勢されるわけにはいかないのだ。
僕は少し考えた結果、アズハルと共に彼女達が住むという遺跡に向かうことにした。王になる話はともかく、王を選定し仕える存在であるケプリ達ならばこの状況を打破する知恵を授けてくれるかもしれないと思ったのだ。
淡い期待に過ぎない。ケプリ達だってこの状況をどうにかできるかは分からない。でも、何もしなければペニスが切り落とされるだけだ。駄目でもともと、それ以上の結果が得られるなら何だって儲けものだ。
……それに去勢を受けて死んでしまう最悪の可能性を考えると、一秒でも長くアズハルと一緒に居たかった。
僕が街を抜け出している事については、恐らく明日の昼前まではばれないだろうと見当をつけた。
ザフラさんの話では明日の昼までは主人は納屋には来ないだろうという話だった。仮に主人が納屋に向かおうとしたとしても、恐らくその時間帯辺りまでであれば何とか誤魔化してくれるはずだ。
それに仮に僕が居ない事がばれたとしても去勢の時間帯が早まる事は無いはずだ。去勢術をするにも、それ相応の施術者が必要なはずなのだから。
僕の考えを伝えると、アズハルは複雑そうな面持ちになりながらも頷いてくれた。
「私はアミルが王様になってくれるの、諦めないからね。みんなもきっと認めてくれると思うし……。でも、ともかくアフマルお姉ちゃんに話を聞いてもらわないとね」
「アフマル、お姉ちゃん?」
「うん。私達ケプリ姉妹は、一番上のアフマルお姉ちゃんが長姉としてみんなを取りまとめてるの。二番目のアズラクお姉ちゃんと一緒に王の間を守っているから、まずはそこに行こう。
そうと決まったらいつまでもこうしては居られないね」
アズハルは言い終えると、少し照れたように顔を伏せた。その視線の先にあったのはまだ交合の余韻を残したままの接合部だ。僕は力を失いかけてはいたものの、未練がましくまだアズハルの中に身を埋めたままだった。
「……抜くよ。ぅ、ぁ、あっ」
温かな体温が離れていく物寂しさが胸の中を引っ掻く。でも今はそんな切なささえ愛しかった。
無くしてしまったら、もうこの切なささえ味わえないのだから。
身を離したアズハルは僕を見下ろして一瞬物欲しそうな顔をしたものの、すぐに表情を切り替えて手早く衣服を身に付ける。
僕の襤褸はもう着るという程でも無いような物なのだが、とにかく僕も前を合わせてひもで縛った。
腕も足もまだ重たかったものの、不思議と交わる前より身体の調子がいいような気がした。しかしまさかそんなはずは……。
僕は頭を振って立ち上がるべく膝をつく。
「立てる?」
「あ、ありがとう」
とその手を取りかけ、僕は彼女の足が震えているのに気が付いた。
視線で問うと、アズハルは頬を染めて目を伏せる。そんなアズハルの太ももの内側を、つぅっと粘ついた液体が垂れ落ちていった。
アズハルは慌ててそれを拭い取りながら、さらに顔を真っ赤にする。
その拭われた物が何なのか分からない僕では無い。当然僕の顔も熱くなってきてしまう。
「あ、あのね。……さっきのが凄くて、腰も膝もまだがくがくしてるの。でも、支えられない程じゃないから」
「だ、大丈夫。何とか歩けそうだから」
僕は膝と腰に力を込め直して立ち上がり、そして少し迷った末にアズハルの手を握った。
昆虫の形をしているアズハルの手は、しかし彼女の気持ちが滲み出ているかのように温かく、僕の手にちょうど良く収まっ
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