200X年。人間は静かに、滅亡の危機を迎えていた。
全ては数年前の1999年、突然空に異世界との回廊、通称ゲートが開いたことから始まった。
ゲートから現れたのは、神話や民話、ファンタジー小説などで語られるような魔物を女体化させたような、魔物娘達だった。手当たり次第に現代社会を侵略し始めた彼女達に対し、人間達は抵抗する術を持たなかった。
あるいは彼女達が武力で世界の侵略を試みたのであったのならば抵抗出来たことだろう。だが彼女達の目的は人類を皆殺しにし、世界を奪い取る事では無かった。人間と愛し合い、争いも無く末永く幸せに暮らしたいという、そんな恋する乙女のような理想を抱いて現代社会に侵入してきていたのだ。
どんな相手であろうと攻撃する為にはそれなりの理由が必要となる。だが当時の人間達は少女のような理想を抱いた彼女達を攻撃できるような理由を見つける事が出来なかった。
そして、その一瞬の躊躇いによって大局は決してしまったのだった。
魔物娘達。獣や昆虫のような特徴を持つ、美しい女性の姿を持った彼女達が現れて数年。それまで地球上に何十億と居た純粋な人間は、今や山奥や絶海の孤島のような場所にしか見られなくなった。地球上を埋め尽くしていた人類のその大半は、今や侵入してきた魔物達と同じような存在へと変じてしまったのだ。
魔物娘達の肉体、そして魔界門から流れ出る異世界の空気には、人間を魔物へと変えてしまう力があったのだ。だが人々がその事に気が付いたのは、人類の半数が魔物に変じてしまった後の事だった。
男性はインキュバスという魔物に、女性はサキュバスを始めとする様々な魔物に変じた今、地球の支配者は明らかに人間では無く、魔物達だった。
だがそれを憂う者は今やどこにも居なかった。なぜなら、魔物達にとっては恋人とイチャイチャとする事以外は些事でしか無かったからだ。
皆が皆そんな調子だったから、戦争というものも馬鹿らしくなって無くなった。
国境というものの線引きも、いつの間にか意味をなさなくなった。
エネルギー問題、環境問題、食糧問題なども、魔物娘達の魔力エネルギーなどによってご都合主義的な程に見事に解決されていった。勤勉が推奨されていた時代は廃れ、今や働こうとする者は奇異にみられるような時代にさえなっていた。
人類は堕落してしまったのかもしれない。しかし、皮肉にも人類が人間を辞めたことによって初めて、人類が長い間求めてきた相互理解と恒久平和もまた実現されたのだった。
……前置きは、こんなところでいいだろうか?
何が言いたいのかと言えば、つまりは現代は魔界によって完全に侵略され尽くされ、人類はほとんど魔物になっちゃったけど、平和に幸せに、基本的には何の悩みも無く生活できるようになったっつーことなのである。
それでもまぁ、たまには波風も立つ。例えば、こんな風に……。
朝日が顔に当たり、アキラは顔をしかめていつものように隣にあるはずの温もりを探した。
いい匂いのする柔らかい彼女の身体に顔を埋めてひたる朝のまどろみは何物にも代えがたい至福の時間なのだが、どんなに腕を伸ばしても愛しい人の身体は見当たらなかった。
「ヒロ。どこだ」
アキラは寝ぼけまなこを擦りつつも狭い六畳間を見回す。珍しく早起きしたらしい愛しい彼女は、日の差し込む窓側の机でパソコンに向かっていた。
朝はいつも身体も下半身もなかなか離してくれないヒロが食いつくように画面に向かって何かを調べている。
アキラは落ち着かない気分になって来て、居てもたってもいられなくなる。魔物娘が朝立ちした恋人から一番搾りを啜る事よりも優先するほどの事とは何なのか、恋人のアキラとしては気にならないわけが無かった。
アキラは簡単に洋服を身に纏うと、足音も殺さずにヒロの後ろに回り込む。彼女は相当集中しているらしく、後ろに回り込んでも全く気が付いていなかった。
熱心に覗き込んでいる画面上には魔界ネットの掲示板が映っていた。アキラはちょっと安心してしまったが、しかしまだパートナーを見つけられないでいる男性や魔物娘の書き込みなんかがされている掲示板を見てヒロは何をするつもりなのだろうか。
「ヒロ? ヒロってば」
呼んでも返事は帰って来ない。
アキラは腋の下から腕を回して乳房を握りしめようとしかけ、その腕を途中で止める。それではいつもやっている事と変わらない。この場合は直接的に視界を遮ってやる方が有効だろう。
「だーれだ」
と言いながらヒロの目を自分の手で塞ぐアキラ。だが彼の小さな笑顔はすぐに怪訝な物へと変わる。
手の平が濡れる感触があったのだ。この状況でそんな事になる理由は、考えられる限り一つしかなかった。
「ヒロ?」
「うぇ、うぇぇぇ。アキラぁ」
アキラに気が付いて振り向
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