金曜日のゾンビ

 金曜の仕事終わりに解放感を感じ始めたのは、ごく最近の事だった。
 きっかけはどこにでもある些細な事。ただ単純に、恋人が出来たというそれだけの事だった。でも、ただそれだけの事で僕の人生観は大きく変わった。
 それまでは何曜日であっても気分が浮かれるという事が無かった。確かに週末に仕事が無いという事は安心感をもたらしてくれるが、だからと言ってそのあとには月曜日が来るのは分かっていたからだ。
 そんな自分が今では何よりも休日を待ち望むようになった。そのあとに月曜日が来ることも、同じような一週間が何度も繰り返される事まで含めて、何だか楽しいと思えるようになったのだ。
 月曜日でも火曜日でも、ささやかな喜びがあるだけでも生活は楽しくなるらしい。だけど、やはり待ち望んでしまうのは仕事から解放されて一日中楽しみを味わえる休日だ。
 今日は待ちに待った金曜日だ。業務時間もようやく終わって、あとは帰るだけ。至福の瞬間とまでは言わないまでも、仕事という拘束から解放されたと思うと自然と顔が綻んでしまう。
 同僚たちも皆そわそわと浮き足立ち、飲みに行くような話なども上がっているようだ。
「お疲れ様でした。お先ですー」
「あ、おいお前もたまには顔出さないか」
 挨拶も早々に帰るつもりだったのだが、思わぬところで先輩につかまってしまった。どうした物かと困っていると、同期の女の子がこちらに気が付き声をかけてくれる。
「彼、下戸なんですよ。歓迎会でも課長に無理矢理飲まされて吐いちゃって、そのあと二三日休んだくらいで」
 僕は内心で同期に感謝しつつ、素直に先輩に頭を下げた。
「すみません。匂いだけでも酔っちゃうくらいに弱くて」
「そうか、そりゃ悪かったな。まぁ今度飯でも行こうや。それならいいだろう」
 残念そうな先輩に対し心苦しさを感じながらも、僕は笑顔で返事をした。
「ええ。その時は驕りでお願いします」
「まったく調子のいい奴だ。それじゃお疲れ」
 苦笑いを浮かべる先輩と訳知り顔の同期に見送られ、僕は頭を下げて職場を後にする。
 二人に見送られた時は内心申し訳ないと思っていたものの、職場の外に出た途端にスキップでもしたい気分になっていた。


 帰り道でふとレンタルショップが目に付き、面白い事を思い付いてしまった。
 部屋に着くのが遅くなってしまうが、しかしこの素晴らしい思いつきを実行しない手は無いだろう。
 僕はレンタルショップに足を踏み入れ、とあるコーナーで映画を適当に見繕い、ついでにゲームコーナーで中古のソフトも籠に放り込んだ。
 カウンターで一週間のレンタルで映画を借りる。
 店員さんは金髪が良く似合う、スタイルのいい綺麗な女性だった。どうやら新人らしく、処理する手つきはたどたどしい。
 普通の男であれば表情を緩めて気遣いの一言でも掛けているところだろう。僕も急いでいなかったらそうしていただろうが、今はそれ以上に帰宅後の事で頭がいっぱいでそんな余裕は無かった。
「返却は一週間後になります」
「ありがとうございます」
 僕は店員の笑顔に見送られて店を出る。
 一瞬、何か含みのある笑顔にも思えたが、きっと僕の気のせいだろう。それより早く帰る事の方が重要だ。


 そのあとは何事も無く、無事に住み慣れた安アパートにたどり着いた。
 ポケットから鍵を取り出している間にも何だか胸が高鳴ってしまう。鍵を開けるだけでこんな気持ちになれるという事も、最近知った事の一つだ。
「ただいま」
『あ、あ、あ、いく。いくぅー』
 部屋に入るなり聞き覚えの無い女性の艶っぽい声に出迎えられ、僕はぎょっとする。
 何事かと廊下を渡ってリビングの扉を開くが、特に部屋の様子に変化はなく、見知らぬ女性も居なかった。明かりが点いていないせいで部屋は暗かったが、荒らされた形跡ももちろんない。
 変わっている事と言えば、普段はテレビを見ない同居人の女の子が珍しくテレビ画面をじっと眺めている事くらいだ。
 安堵にほっと息を吐いたところで、僕は状況を理解した。
 テレビ画面に映っている裸で絡み合う男女。女の顔に見覚えがあるのは、映っているのは僕が持っているAVだったからだ。女の人の声はどうやらテレビのスピーカーから聞こえてきた声らしい。
 テレビの正面のソファに膝を抱えて座っている可愛い同居人は画面に夢中になっているらしく、僕が入ってきた事にも気が付いていないようだ。
『うぅ。もう、出る』
『かけて、顔に。あぁぁあっ』
 画面の中の男女はクライマックスを迎えたらしい。放心気味の女の上から男が離れ、彼女の顔の上に仁王立ちになる。
 肌色のモザイクから放たれる白濁液を顔面で受け止める女。そして彼女はモザイクの中のものを掴んで、自分の口に運んでいく……。
 ……流石に、そろそろいいよな。
「リヴィ。お
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