顔にあたる日差しで目が覚めた。
天井の穴の頂点で太陽が輝いている。という事は真昼だ。
呉葉の酒の力のせいか、俺も百合も何度絶頂に達しても意識は飛ばず、外で鳥が囀るころにようやく酒が抜けたらしく、やっと眠りに落ちる事が出来た。
そして今、俺達は眠った時のままの姿だった。つまり、俺は百合の体に巻きつかれたままという事だ。
さすがに今は下の方は抜けているが、体は互いの鼓動が分かるほどに密着している。昨日の残り香もあり、油断するとまた反応してしまいそうだ。
耳元で百合のささやきが聞こえた。また嫌な夢を見ているのだろうか、百合は寂しげに細い眉をよせ、目じりに涙を溜めていた。
俺は唯一動かせる舌で、その涙を拭う。
俺には彼女の涙を止めることは出来ないのだろうか。彼女の寂しさを消し去ってやることは出来ないのだろうか。
昨夜、俺は心の底から百合が欲しいと思った。彼女が妖怪であることなど一切気にはならなかった。
妖怪を嫁にもらうという話もそこまで珍しい物でもない。だが、その妖怪の婿たちは皆深い愛で妖怪を幸せにしてやったのだという。
彼女を幸せに出来ない俺では、寂しさすら癒してやれない俺では、やはり彼女と一緒になることなど出来ないのではないか。
それに、こんなに美しい彼女が俺なんかと一緒になっても、妹に何もしてやれなかったように彼女にも苦労を掛けさせるだけなのではないのか。
そんなことを考えている俺の目の前で、彼女は目を開いた。
一瞬状況が飲み込めなかったのだろう、俺の顔をぼうっと眺めた後、彼女は目を見開いて即座に俺の身体から離れた。
暖かさが失われ、ちょっと物寂しくなる。
「も、申し訳ございませんでした。私、なんということを」
百合の全身が少しずつ赤くなってゆく。昨日飲んでいた時よりも赤いくらいだった。百合は顔を隠して首を振る。
「わ、私は、昨日はその、そう、お酒のせいで、だから決して無理矢理あなたを襲おうとしたわけでは」
「いや、こちらこそ済まない。謝っても取り返しがつかないことをしてしまったが、君の肌に触れたり、匂いを感じていたら、もう君に対する欲望を抑えられなくなってしまって」
何を言っているんだ俺は。
「それ、本当ですか」
「申し訳なかった」
俺は彼女の顔も見れず、ひたすら頭を下げた。
「か、顔を上げてください」
上げろと言われても、合わせる顔がない。
俺が上げられずに居ると、彼女は両手で俺の顔を半ば無理矢理自分の方へ向かせた。
「私、怒ってなんていません。悲しんでもいない。あなたが負い目を感じる必要なんてこれっぽっちも無いんです」
「百合」
彼女は照れ笑いを浮かべながら、頷いてくれる。
「あなたは悪くない。私の毒には、体に強い快楽を感じさせる成分が含まれているんです。きっとそのせいです。
でも殿方の唾液と混ざり合うと私本人にも強く作用してしまうので……昨日はちょっと乱れた姿をお見せしてしまいました」
「いや、そうじゃなくて」
噛まれる前に、すでに俺は……。だが彼女は全てを言わせてはくれなかった。
「水浴びしに行きませんか」
「え」
「包帯を代えるつもりが、余計に汗や、その、いろいろなものにまみれてしまいましたし、それにこのままだと私、あなたを……、い、いえ、なんでもないです」
「そうだな、行こうか」
確かにこのままこの匂いに包まれていたら、また彼女を押し倒してしまいかねない。
「肩貸してくれるか。まだ歩くのには自信が無いんだ」
あれだけ激しい一夜を過ごしたというのに、体は少し消耗していた程度だった。
昨晩深夜に入り、翌日動けなくなる事を覚悟で快楽に溺れていたというのに、体の傷さえ癒えているありさまだった。
呉葉の酒のおかげか、百合の毒の効果か、それとも妖怪の身体には男の生命力を高める力でもあるのか。明日にはもう普通に歩くことすら出来そうだった。
百合が案内してくれた先には小さな沢があった。
流れは穏やかで、体を清めるにはちょうど良さそうだ。
俺と百合は隣り合って水を浴びた。
最初から百合は裸同然であったし、昨日は裸を見せ合うよりも淫らなことをしあったというのに、彼女の無防備な姿を見るのは気恥ずかしかった。
だが、横目で覗き見る彼女の姿はやはり美しかった。
長い黒髪はつややかに濡れ、白い素肌は水を弾いて滴がしたたり落ちてゆく。
胸のふくらみから、毒腺の上を通り過ぎ、臍へと水が流れ落ちてゆく。木の葉の隙間から差し込む陽光がきらめき、昨夜とはまた違った清廉な美しさがあった。
虫の体に両手で水をかけ、撫でる姿すら愛おしい。
彼女は俺が見ているのに気が付いて、顔を赤らめる。何かと思えば、彼女が落としていたのは俺が昨日付けた精液であった。
俺は慌てて目をそらす。そして
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