「好きです。あなたの事、初めて見た時から好きでした。
でも、分かっています。あなたは私よりもずっとメアリーちゃんの事を愛していて、大切にしているって事。
気にしないでください。私はただ伝えたかっただけなんです。もうあなたには会えなくなるだろうから、だから、最後に私の気持ちを伝えておきたかったんです。
これで思い残す事は無くなりました。私はきっぱり、あなたをあきらめます。
メアリーちゃんと、末永く仲良くしてくださいね。シャルルさん」
はっと目が覚めると、懐かしい天井が広がっていた。
「あれ、私なんでここに」
なんだか仕事に行く気になれなくて、大部屋で寝ていたはずなんだけど……。ここは。
ベッドから出ようとするものの、身体が重たくって全然動かなかった。頭がふらふらする。きっと昨日の事を思い出してしまったからだ。だからこんなに嫌な気持ちになっているに違いない。
最初から結果なんて分かってたのに、親友の旦那様に告白して、振られて。
お詫びとして、魔宝石も渡して……。別に、後悔はしていない。後悔しないために告白したんだから。でももう。
「私には、何にも無くなっちゃったなぁ」
頬が熱い。身体もだるいし、もしかしたら熱が出てるのかなぁ。
体調が悪いなんて、こんな事初めてだ。
「あら、アン気が付いたのね」
難儀しながら首を動かすと、ベッドのそばに母さんが座っていた。
「母さん」
「無理して動いちゃ駄目。あなた、魔界熱になっているのよ?」
「まかいねつ? 私、死んじゃうの?」
「大丈夫。そんな病気じゃないわ。二三日寝ていればすぐ直ってしまうわよ」
そうなんだ。でも、何だか元気になっている自分を想像できない。
それに、こんな想いを抱えたまま生き続けるくらいなら、どうせなら死んじゃったほうがいいかも。
……私、何考えてるんだろう。
「二日も仕事に出ないって聞いて行ってみれば病気になっているんですもの、びっくりしちゃったわ」
「二日? 私、昨日は仕事に出たはずじゃ」
「昨日は一日中寝ていたじゃない。今朝なんてベッドから出られない上、声も出せなくなっていたのに……覚えていないの?」
ひんやりした手が私の髪をかき上げて、額の上に置かれる。母さんの優しい微笑みが胸に沁みるようだった。
そうだ、思い出した。確かに母さんの言った通りだったんだった。
昨日はどうしても仕事に行く気になれなくて、一日中ずっと布団をかぶって寝ていたんだ。
一晩寝れば少しも気が晴れるかと思ったけど、一日開けてみれば余計に身体が全然動かなくなっていて。みんなが心配そうな顔で何か言ってたけど良く分からなくて、そうしているうちに母さんが来て、私を背負ってここまで運んでくれたんだった。
「母さんにおぶってもらうのも久しぶりだったね」
「うふふ、私も昔の事を思い出しちゃったわ。
でも、どうして急に熱が出ちゃったのかしら。何か心当たりはある?」
私は少し口ごもってから、首を振った。
「分かんない」
嘘だ。原因は何となくだけど、分かっている。
「そう。分かったわ。みんなに伝染らないように私達の部屋の個室に運んだから、とにかく遠慮せず休みなさい」
「母さん。ありがとう」
「でも、懐かしいわね。あなたは誰よりもこの部屋から出たがらなくて、誰よりも甘えん坊さんだったのに、いつの間にかこんなに大きくなって……
あら、もう寝ちゃったのね。おやすみなさい。アン」
目を瞑っていた私にそう言って、母さんは部屋を出て行った。
目を閉じて、眠ろうと思った。
でも、頭の中でぐるぐると言葉が回って止まらなかった。忘れようと思う程、想いは記憶に強くこびりつく。しつこい汚れを擦って落とそうとすればするほど、汚れが広がってしまうみたいに。
大好きだった。一目見た時から、シャルルの事が大好きだった。
縛られて転がされている男の事を好きになるなんて自分でも信じられなかったけど、でもどうしようもなかった。
だけど、その人はあろうことか親友の恋人で……。
食事を届けに行くのだけが楽しみだった。一瞬でも顔が見えるかもと期待して、その度二人の交わりの匂いにがっかりして。微かなシャルルの精の匂いを思い出して、独りベッドで自分を慰めて……。
でも、いつの頃からか食事も運んで来なくていいと言われてしまって。
彼を忘れるために、ひたすら仕事に打ち込んで、目標だった魔宝石探しにのめり込もうとした。……結局彼の事も忘れられず、魔宝石も見つけられなかったけど。
シャルルとメアリーが食事に招いてくれた時は心の底から嬉しかった。
駄目元で言った料理を教えてほしいという発言にも、親身になって応えてくれた。人生であんなに幸せだと思ったことは無かった。
もう、今後の人生であんなに幸せな日
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