第七話:家族(姉妹編)

 誰かが交わっている音がする。
 女の嬌声、男のくぐもった息遣い。接合部が奏でる、ぐちゅり、ぐちゅりという肉のこすれ合う音。
 私の身体は動かない。ここは一体何なんだろう。
 ただ、胸の奥が寒くて震えているような妙な不安感だけがある。
「あぁ、凄く深いよぉ。私もう、いっ、逝きそう」
「僕もだよ。凄くきつくて、駄目だっ。もう、出るっ」
 のけ反る女の影。虫の下半身の八本肢が食い込むくらいに強く男の腰元にしがみつく。激しく胸を上下させながら、蕩ける瞳で男を見下ろしている目は二つ、いや、髪に隠れた額にもいくつも濡れた瞳があるみたいだ。
 この特徴は私と同じ。アントアラクネだ。
「相変わらず、メアリーの、あそ、こは。逝ってる、間も、激しいんだから」
「だってぇ。どうせならいっぱい欲しいんだもん」
 メアリーって、私じゃないか。私の目の前で私がシャルルと交わっていて、じゃあ今の私は?
 メアリーが突然気が付いたように私の方を振り向いた。自分自身と目が合う。なんだか不思議な感じ。
「あら、アンじゃない」
 アン? 私が?
 振り向くと鏡が置いてあって、私の姿が映っていた。
 頭の上の触角やシャツを押し上げる大きめの胸はいつもの私と変わらない。でも、健康的に少し焼けた張りのある肌、女らしい曲線を描きながらも筋肉質な肢体、一対の目しか無い幼さの残る可愛らしい顔立ち、六本肢の昆虫型の下半身。これは私には無いものだ。
 この身体はアントアラクネじゃなくて、ジャイアントアントの、アンの身体だってこと?
 でも、どうしていきなり私がアンに?
 困惑しているはずなのに、鏡の中の私はにこにこと笑いながらこっちに手を振っていた。
 その手が突然荒々しく掴まれる。
 知らない男がアンの腕を引いてベッドに連れて行く。
 何が、何が起こるの。
「しゃぶれよ」
 男がいきなりズボンを下ろして、アンの顔の前に自分のそれを晒す。
 アンは戸惑うようにそれを見て、男の顔を見て、泣きそうな顔で顔を反らした。
「売れ残りのお前を貰ってやったのは誰だと思っているんだ? あぁん? お前が金を積んで結婚してくれって頼んできたから、仕方なく貰ってやったのに。でなければ誰がこんな気持ちの悪い虫の魔物……」
 弾ける様な音がして、アンが倒れる。
 男がアンの頬を引っ叩いたのだ。
「お前言ったよな。金も渡す、言う事は何でも聞く、好きなように身体を弄んでいい、むしろ奉仕するから、だから結婚してくれって。お前が言ったんだ。旦那様を喜ばせることも出来ないのか?」
 アンは起き上がり、虚ろな顔で見知らぬ男のそれを口に含む。
 やめろ。アンが嫌がってる。
「ほら、もっと気合を入れて舐めろよ。もっと吸って、口全体を使え。そうだ、いいぞ」
 男が腰を振り始める。アンの口の端から泡が漏れ始め、嗚咽が聞こえ始める。
 やめろって言ってるでしょ。アンが嫌がってる。もっと、もっと大事にアンを扱ってあげてよ。くそ、何で声が出ないのよ。何で手も足も出ないのよ。
「そら、いくぞっ」
「むぐぅっ」
 男がアンの顔を掴んで、力付くで自分の股間に押し付ける。
 アンは呻き声を上げ、必死で目を閉じて堪えていた。
 男の手が離れる。咳き込みながら倒れ伏すアン。虚ろな表情で天井を見上げながら荒い呼吸を繰り返すばかりになる。もう、嫌がるそぶりも見せない。
 男の手が、今度はアンの胸元に伸びる。シャツを引き千切り、直にアンのおっぱいに触る。
 虫唾が走る。こんな男、私がそばに居たらアンに絶対近づかせないのに……。
「上半身はいいんだがなぁ。可愛い顔の割に胸もでかい。これで下半身も人間ならいう事ねぇのに……。まぁいいや、魔物のアレは具合がいいって聞くし」
 アンの腰布が引き千切られる音が、悲鳴のように響き渡る。
「へへ、試してみるかなぁ」
「やめろ……。やめろ! アンの身体に触るな!」
 駆け出そうとする私の腕を、シャルルが掴んで止める。
 どうして! どうして止めるの? アンは私の大切な友達なのに。友達が苦しんでいるのに何も出来ないなんて嫌だよ。
「駄目だよメアリー。アンさん達夫婦の邪魔になってしまう」
「だって」
「アンさんに念願の旦那さんが出来たんだよ?」
「違うよ。アンが求めてた人はもっと違うの。あんな乱暴な奴じゃなくて、もっと」
 もっと優しくて、アンの事を大事にしてくれる人。アンは、シャルル。あなたの事を一番求めていたんだよ? あんな風に嫌がる妻を無理矢理犯そうとするような男なんかじゃない。
「でも、結婚したって事はアンさんが選んだって事だよね」
「違う。違うよ、だって嫌がってるもん……」
 だって、今のアンは全然楽しそうじゃない。男に押し倒されてるのに嬉しそうじゃないもん。苦しそうだもん。
 あんなの、アンが本当に望ん
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