いつしか私達二人は言葉数も減っていった。
朝、シャルルはぎりぎりまで私を抱きしめたり、手を繋いで居てくれるのだが、そのあとは何も言わずに出て行くのが当たり前になった。
そして帰って来た時も、何も言わずにお互い服を脱いでベッドの上で肌を重ねる。
夜の営みは決して淡白なわけじゃ無い。むしろその逆で、言葉を交わす暇も惜しい程お互いの身体を激しく求め合い、貪り合っている。
でも、こんな事を続けていていいはずが無い。
昼間は心が壊れそうな程胸を痛めて、夜中は体が軋みを上げる程交わり続けるなんて、魔物だとしても体にいいと思えない。こんなの、異常だ。
このままじゃ、私達の関係が……。
何とかしなければいけないのは分かっていた。けれど、何をすればいいのか分からなかった。どうすれば不安や恐怖が消えるのか、彼と以前のように笑い合えるのか。手がかりでさえ掴めていなかった。
それでも彼を求める気持ちだけは、日に日に強くなっていった。繋がっていなければ寂しくて寂しくて胸が痛くなるくらい、狂おしい程に愛しくてたまらなかった。
……なのに、最近は彼も何も言ってくれない。
もしかして、彼はもう私を愛してくれていないのだろうか。私との営みにももう飽きてしまっていて、私をただの魔力タンクとしか思っていないとしたら?
一度浮かんだ最低の考えは簡単には頭の中から出て行ってくれなかった。私はもう何もしていない事に耐えられなかった。
でも、私一人で出来る事なんて何もなくて……。
気付けば私は、またいつかのように酒瓶を手にしてしまっていた。
食堂に誰もいないのを確認してからグラスとワインを持ち込んだ。
栓を抜いてグラス一杯なみなみと注いで一気に飲み干す。喉とかぁっと熱しながら、液体が食道を下っていく。
これは人間の作ったただのワインだから、余計に体が疼いてしまうと言った事も無い。ただ酔っぱらって忘れるためにはこっちの方が都合がよかった。
二杯目を注ごうとすると、突然隣にもう一つグラスが現れた。
「朝っぱらから酒盛りっすかぁ。飲むならもっと味わってやらないと酒が可哀そうっすよ」
「……ほっときなさいよ」
隣にキリスが座り、勝手に私の手から瓶を奪って二つのグラスに注いでしまう。
偶然見つかってしまったんだろうか。一人で酔いつぶれてやるつもりだったのに、なんだか妙な事になって来てしまった。
「いいんすか。旦那さん放ってこんなところで」
私は二杯目も一気に飲み干して、グラスを机に叩きつけた。
「うっさいわよ。放っとかれてるのは私の方なんだから!」
瓶を奪い返して三杯目を注ぐ。
「あんまり飲まない方が」
「飲みたいの。あんたも人の酒飲みたいならつまみぐらい用意しなさいよ」
「このワインは俺達の嫁が働いた金で」
「その嫁達に美味しいお昼ご飯を作ってあげてるのは私の旦那でしょ?」
「……でしたね」
はぁ、とため息を吐いてキリスは席を立った。
意外だった。どうせ適当に難癖付けて誤魔化してくると思ったのに、今日は妙に素直だ。しかも帰るかと思えば、厨房に立って何やら料理をし始めた。
……雪でも降るんじゃないかな。
と言うか、奴はいつからここに居たんだろう。本当に偶然なんだろうか。まさか私をつけて……いたわけは無いか。
グラスに四杯目を注いでいると、キリスがフライドポテトの乗った皿を持って帰って来た。
しかしワインにフライドポテトって合うのかなぁ。
「どうぞ」
「ありがとう」
試しに一口食べてみる。美味いとか不味いとかじゃなくて口の中が痛くなった。辛い。辛すぎる。そのあとさらに塩辛さが遅れてやってきた。
私は慌ててワインを流し込む。それでもまだ口の中が痛い。一体何なのよもぉ。
「あんたこれ」
怒鳴り付けようとしたが、キリスがあまりにも落ち込んだ顔をしているので毒気を抜かれてしまう。
「何、なのよぉ」
「俺が料理をしない理由っす」
「え?」
「俺、極度の味音痴なんっすよ。味音痴って言うか味が分からないというか。それだって、辛いものの方が酒には合うかと思ってちょっと辛みを付けただけのつもりだったんすけど」
キリスはグラスを空けてから、苦笑いを浮かべる。
「シャルルさんが羨ましいっすよ。滅多に人を褒めないうちの嫁まで認める程っすから。軽く嫉妬してますよ、俺」
「でもあんた、試食の時は美味しそうに」
「美味いものは味だけじゃなく分かるんすよ。食感とか噛みごたえとか、あと体が本能的に求めますから」
キリスは急に笑うのを止めて、少し怖い目で私の方を見る。
「メアリーさん、寂しいんですか?」
「べ、別に私は」
「でも、そうでもなきゃ酒なんて飲んで無かったっすよね。シャルルさんと一緒になってからは酒の匂い全然してませんでしたし、そもそもここ
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