耳を引き裂くような雑音と共に、急に世界が明るくなった。
なんだか周りがあわただしい。私の周りでいくつもの気配があっちへ行ったりこっちへ来たりしている。
頭がずきずきする。薄目を開けて見てみると、部屋のカーテンが開けられていて、朝の日差しが私の身体に降り注いでいた。身を縮めて布団をかぶって、何とか太陽の光から逃げる。
人が寝てるんだから、もっと静かにしてほしいんだけどなぁ。
「メアリーちゃん。今日は出られそう」
名を呼ばれ、私はいやいやながらも顔を出した。
「ごめん、アン。ちょっと今日も頭が痛くて」
私の方を覗き込んでいた幼さの残る顔立ちの少女、アンに私はそう返事をする。
「そっか、体調が悪いんじゃしょうがないよね。あの、ごめんね看病も出来なくて」
……体調不良っていうか、多分昨日飲み過ぎたせいだろうけど。
彼女の頭上に生えている一対の触角が、申し訳なさげに垂れた。だまされているとも知らず、本当に単純な子達だ。
「いいって。それより私の方こそ体が弱くて、いつも仕事を手伝えなくてごめんね」
「そんなに謝らないで。私達仲間じゃない。じゃあメアリーちゃんの分も頑張って来るねー」
二の腕に可愛い力こぶを作って見せてから、アンは元気に部屋を出て行った。彼女に続いて同部屋の子達も次々に意気揚々と部屋を出て行く。みんなはこれから仕事に行くのだ。
疑う事を知らない純真そのものの黒い瞳。健康的な張りのある肌。小柄な体躯に似合わない重たい建設道具を担ぎながらも、仕事場に向かうその姿は少し楽しげですらある。同じ魔物なのにどうしてこうもジャイアントアント達は働きたがるんだろう。正直、私には理解できない。
最後の一人の六本肢と黒いお腹を見送り、私は再び布団に包まった。考えても仕方ない。それより今は寝ていたい。
風雨をしのげる部屋の中に暮し、柔らかいベッドでいつまで寝ていても怒られない。おまけに働かなくても食べ物まで出てくる。そんな天国のような環境に居ても、私は欲求不満で仕方なかった。
まるで身体にぽっかり穴が開いているみたいだ。
この穴を何かで埋めたい。埋めたくて埋めたくて仕方が無い。少しでも早く埋めないと頭がおかしくなってしまいそうなくらいだ。
男が欲しい、出来れば筋肉質で大柄な男。その逞しい腕に抱かれて、硬くて立派にそそり立つアレで私の狭くて小さな穴を埋めたい。
……のだが。
「ぅあー」
夢から覚めた私はいつだって一人だった。
部屋の中には私以外にもう誰も居ない。一体どうしたんだっけ。ああそうだ、私が二日酔いで眠っている間にみんな仕事に出て行ってしまったんだった。
ベッドから出て、未だ眠い目を擦りながら食堂に向かう。お腹空いた。食堂ならきっと誰かの旦那が居るはずだ。頼んで何か作ってもらおう。
仲間達からはぐれてしまったと嘯き、このジャイアントアントの巣に転がり込んでどのくらい経つだろう。色んなジャイアントアントの巣を渡り歩いて来たけど、なんだかんだでここが一番居心地が良くって長居している。
それにしても食堂や大浴場まで備えた巣なんて初めて見た。地中に造られているこの巣は形自体も結構変わっていて、最初はよく迷った物だった。それが今では目を瞑ったままでも、寝ぼけながらでも思ったところに行ける程になっている。ここで生まれ育ったような慣れ具合だ。
食堂の扉をくぐると、予想通り男が三人たむろして話をしていた。雄の発するかぐわしい匂いにどうにかなってしまいそう……と言いたいところだが、彼らにそういう期待するのは随分前から止めていた。
基本的に彼等からはもう雄の匂いがしない。彼等に染みついた妻の魔物の匂いが雄自身の匂いを打ち消してしまっているのだ。しかも前夜に激しく、数多く交われば交わる程雄の匂いも薄れるらしい。
今の彼等から一切雄の匂いがしないという事は、それだけ昨夜は激しく燃え上ったのだろう。この巣の奴らと来たら、大人しそうな顔してなんて羨まし……いや、お盛んな事だろう。
「あ、メアリーさんおはようございます」
「おはよぉー」
なんだか腹が立ってきたので、わざわざ男の隣に座って腕にしなだれかかって胸を押し付けてやる。
「ねぇー。私お腹空いちゃったぁ」
「またですか?」
正面の男が呆れた声で言う。彼の言う通り、実はご飯をせがむのはこれが初めてでは無かった。
それどころか仕事を終えて一服している彼らに食事をせがんでいるうちに、いつの間にか仲良くなって今ではすっかり顔なじみになっているほどだ。
まぁ、隣の男も全く狼狽してない事からも女として見られてない事は明白だけど。
確かにおふざけでやってるだけだけど、でもなんかやっぱ悔しいなぁ。
「じゃあ俺何か作りますよ」
と立ち上がりかける隣の男を無理矢理座らせて
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