無事に卵も生まれ、ヒルダの身体、と言うか性欲も元の一人分に納まるかと思っていたのだが、事態はあまり変わらなかった。
むしろヒルダの性欲は産む前よりもさらに激しくなった。
「おなかに何も無いのが寂しい」
そう言ってヒルダは俺を求め続けた。倒錯的な科白を囁き、魅力的な肉体をちらつかせて……。
もともと彼女の事を心の底から愛している俺が彼女の求めを断るわけも無いのだが、あまりの頻度に少し困惑気味でもあった。
嫁に求められるのは男冥利に尽きる事でもあるのだが、問題なのはそこでは無くて……。
「失礼するぞ。うちの旦那を借りたいのだが」
問題なのは、職場でまでヒルダが求めてくるようになった事だった。
勝手知ったる何とやら、ヒルダは昼休みになる度に卵を抱えてお化け屋敷の監視室を訪れるようになった。
そう、卵を抱えたままだ。
相変わらずうちの嫁は家に居ろと言っても聞かずに仕事を続けていた。なんだかんだ言って、仕事自体も気に入っているらしいのだ。
「おそれられる」と気分がいいらしい。ヒルダの事だから畏れられると恐れられるを勘違いしている可能性もあるのだが、あえて黙っている。
産まれた当初は卵の事が心配だったが、今ではそれも無くなった。ヒルダが常に目を離さず、それどころか四六時中肌身離さず抱えているからだ。
安心は出来るようになったが、俺でさえもあまり抱かせてもらえない程なので、少し寂しい思いもしているが。
「ああヒルダさん。そうかもうそんな時間なんですね。あとは俺見てますから、先輩は昼休みにしてください」
後輩が気を利かせてくれるが、流石にそういうわけにもいくまい。時間の割り振りだって決まっているのだから。
「いや、だけど」
「先輩が戻られ次第俺も休みにしますから。気にしないで下さい」
「ありがとう。折角なのでお言葉に甘えてさせてもらおう。さぁ行くぞ、我が夫よ」
俺が何か言う前に、ヒルダは俺の身体を蛇の尻尾で巻き取って引きずるように移動を始めてしまう。
こうなってはもうどうしようもなかった。
身体が密着しているため、嫌でもヒルダの強い匂いに包まれる事になる。そうすると、頭では駄目だと分かっていても身体が否応なく反応してしまうのだ。
俺の葛藤をよそにヒルダは初めて出会った倉庫の中に入り込み、中から鍵をかける。
ヒルダの魔法に掛かれば鍵など有って無いような物だった。おまけに、一度内側から掛けられた鍵は、ヒルダ以外には開けられなくなるらしい。
つまり今ここは、仕事道具を置いておくための倉庫であるとともに、二人きりの密室でもあるのだ。
「……おなかの中がね、空っぽなの。寂しくてたまらないの。あなたに……埋めてほしいの」
濡れた瞳に俺の姿だけを映して、ヒルダは囁く。飯では無くて、俺の精で空きっ胎を埋めたい、と。
「なぁヒルダ、やっぱりこんなの良くないって」
ヒルダは何も答えず、俺の腰元に屈んだ。
物音一つしない倉庫内に、かちゃかちゃとベルトを弄る音とジィッとジッパーを下ろされる音が響き、一気にズボンが下ろされる。
服の中から解放された怒張がヒルダの目の前でバネ仕掛けのように勢いよく跳ね上がる。
別に仕事中もずっとこうなっていたわけでは無い。ヒルダの匂いを嗅いだせいだ。
卵を産んで以来、ヒルダの匂いはその時の彼女の状態に合わせて変化するようになった。
ヒルダ自身の性欲が昂れば昂る程、彼女の匂いも強く、甘くなる。
そして一度でも匂いを嗅いでしまえば、俺は彼女が欲しくてたまらなくなってしまうのだった。
元からそうだったのかもしれないし、俺の身体が彼女に馴染んできているからなのかもしれない。
「そんな事言っても、こっちは正直じゃない。私の身体を抱いて、犯して、出したくてしょうがない……違う?」
欲情に溺れた獣の目でヒルダはにたりと笑い、目の前の俺自身にしゃぶりついた。
いつ誰が道具を取りにやって来るかも分からないのに……。場所を選ぶ気さえ起らないくらいに、もう我慢できないのだろう。そして我慢する気も無い。
尻尾で大事そうに卵を抱える母の一面と相まって、その姿は肉欲に堕落しきった人妻そのものと言った感じだ。
彼女自身、自分の性欲に振り回されているのかもしれない。そう考えるととても不安定で、アブノーマルなのだが、ヒルダは決してセックス出来れば誰でもいいというわけでは無いのだ。
彼女が求めているのはセックスじゃなくて、俺自身と、俺とのセックスなのだ。街を歩いていてもテレビを見ていても、他の男には見向きもしない。
結婚したころと全く変わらずに俺だけを求めてくれてる。ただひたすらに俺を愛し続けてくれてる。母親になっても、一途に恋する乙女は生き続けている。
そんな姿見せられたら、応えないわけにはいかな
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