今、俺はククリと言う少年と隣り合ってベッドに座っていた。
こっちを見てにやにや笑っているが、この子は一体何者なのだろうか。
フランの使いと言うからてっきり同じ騎士の格好をした奴が来るとばかり思っていたのだが、やってきたのはどう見ても子供の、しかもおかしな話し方をする変な奴だった。
「フランが欲しくは無かったのか。しこたま抱いてやったのじゃろう」
ククリは挨拶をするように平然と言ってのけた。俺はあまりの内容に言葉を失う。
そんな俺の顔を見て、ククリは笑みを深める。
「フランの抱き心地は極上じゃったろう? わしの見立てでもあの娘の具合は相当いいはずじゃ」
「子供がませたことを言うもんじゃない」
色々なものを通り越して、俺は呆れてしまった。この年にしてこんな物言いをするとは、どんな教育を受けてきたのだろうか。
彼は頬を膨らませて腕を組んだ。その様子はやはり子供にしか見えないのだが。
「ふん。こう見えてもわしはお前たちより年上なのじゃぞ……。まぁ、完璧すぎるわしの魔法を見抜くことは誰にも出来んのじゃから、お主が気付かぬのも仕方が無いのじゃが」
さてはこの子供、いいところのお坊ちゃんか何かなのだろうか。わがままを言ってお忍びで国の外に出て、きっとそうに違いない。
「そんな事より本音はどうなのじゃ。フランが欲しいのじゃろう。身体も心も欲しくてたまらない。違うかの?」
「……ああ、欲しいさ。お前の言うとおり、欲しくて欲しくてたまらない」
俺はもう面倒臭くなってしまった。何も知らない子供に大人の汚さを見せてやるのもいい勉強だろう。
「でもな、俺は戦争でたくさん人を殺してきて、金でいっぱい女を買ってきた。
誰からも必要とされなくなって、行き場も無くなったから墓守をしている。そんな奴があんな綺麗な人に手が出せるわけがない」
ククリは呆れた、と言わんばかりの顔で肩をすくめた。
「さんざん手を出しておいて……。いや、その下半身の己自身を突っ込んで精を出してきたのにか?
本人も言っていたろう。別にお前が初めてというわけでは無いんじゃぞ。魔物は精が無ければ生きられないんじゃからの。
それに、魔物は人間と違って男の身分や出自などといった下らない物は気にせんよ。体と心の相性、それが全てじゃ」
なんという言葉づかいをする子供だろうか。親は何をしているのだろう。
「何じゃ、妙な視線を向けるでない。
……そうじゃ、一つ昔話をしてやろう」
俺は口を開こうとしたが、ククリがあんまりにも真剣な顔をするものだから黙って聞いてやる事にした。
「話の分かる男で助かる。
昔の事じゃ。一人の騎士と、一人の魔物娘が居た。
魔物娘は己の剣の腕に自信が無く、悩みを抱えておった。そして魔物娘は恥を忍んで、国一の剣士と言われた騎士から教えを乞う事にしたのじゃ。
彼は快くそれに応じ、熱心に剣を教えた。娘の吸収力はすさまじく、すぐに騎士と並ぶほどの剣士となった。
そして訓練を共にするうち、二人は互いの事を想い合うようになった。
あるとき、二人は共に戦場に赴くことになった。娘にとっては初めての戦場じゃった。
いくら腕が立つようになったとはいえ、初めての戦場じゃ。娘には戦い方の勝手がまだ分からなかった。
敵兵に不意を突かれ、取り囲まれてしまうのも無理も無い事じゃった。
窮地を救ったのは騎士じゃった。じゃが、娘を庇ったことで騎士は深い傷を負い、それが元で死んでしまったんじゃ。
……娘は自分を責めた。
そしてもう誰にも頼らないことを決め、一人でひたすら剣の腕を磨いた。彼の分も人の命を救うのだと、自分に厳しくあり続けた。
戦場に立てば自らの命もかえりみずに味方を庇い、進んで危険な最前線に立った。
娘は多くの命を救った。味方だけでなく、自らに襲い掛かる敵の命すらも。
そして、誰かを救う度に体にも傷が増えていった……。
もはや娘に並ぶ剣士は居なかった。いつしか娘は赤い盾と呼ばれ、軍に無くてはならない存在になっておった。
そんな娘じゃったが、魔物であるからには生きるのに男の精が必要になる。もちろん精は訓練を共にした相手などからもらっていたようじゃが、娘はそれを食事のようにしか考えておらんかったようじゃ。精をもらえばそれで終わり。その娘は誰にも心を開こうとせず、愛そうとはしなかった。
傷だらけになる自分の身体に自信が持てなかったのかもしれん。あるいは愛した相手を再び失うのを恐れたのかもしれん……。
娘はひたすらに己に厳しくあり続けた。常に剣の修練を忘れず、戦場に出れば数多くの味方を守り、その何倍もの敵を殺すことなく捕えてきた。
……事件は突然起こった。それは戦場での事じゃった。娘に追いつめられた敵軍の魔術師が、自分の命を魔力に変換して大爆発を起
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