穴を掘って、棺桶を埋めて、土をかぶせて、その上に石を載せる。
簡単に言えば埋葬はそれだけだった。細かな作法はいろいろあるものの、一言でいえば死体を埋める。それだけだ。
後輩には「顔色が悪いっすね」と言われた。俺は「寝てないんだ」とだけ答えておいた。
話を切り上げたかったのだが、後輩はさらに「ゾンビでも出てきてくれたらいいっすね」などと言う。何を考えているのか分からず、適当にそうだなと答えておいた。
「どうせなら可愛い子にお持ち帰りされたいっすね」
などと冗談を言いながら後輩は笑っていたが、俺の心中はそれどころではなかった。
フランにどう謝ればいいのか。それを考えているうちに埋葬の式典は全て済んでいて、気が付けば俺は自分の部屋の前に立っていた。
合わせる顔が無い。いや、事故で身体だけ飛ばされてきたデュラハンのフランには最初から顔は無いんだが。
ここで突っ立っていても誰かに見られて不審に思われるだけだ。
思い切って部屋に入る。フランはワンピース姿でベッドの上に身を起こしていた。
逃げようと思えば、近づかなければいい。それだけで彼女は俺の存在に気が付かないのだから。
だが、何も見えなくて聞こえなくて、身体だけ一つ放り出されている状況がどんなに不安で寂しい事か。想像するのは難しい事ではない。
俺はフランのそばに腰を下ろした。案の定、彼女は一瞬怯えたように身を震わせる。
無理矢理犯したのだから、怖がられるのも当たり前か……。
だがフランは座ったのが俺だと分かると、左手で俺の手を取った。そして右手で鉛筆を取って文字を綴る。
《謝ろうと思っていました。襲ってしまってごめんなさい》
本当に、突然現れたから驚いただけだったのか。
彼女の手を指でなぞる。
『あやまるのは おれのほうだ』
フランの手が紙の上に置かれる。だが、言葉はなかなか書かれなかった。
《どうしてですか》
『いやがるきみを むりやりおかした』
《気にしないで下さい。おかげで濃い精がたくさんもらえました。それに私は別に》
ああそうか、この子はそういう子なのだ。相手を糾弾出来ない。気持ちを飲み込んでしまう女性なのだ。
いや、それとも文句を言えばまた乱暴されると恐れているのかもしれない。
フランが書き終える前に、俺は意思を伝える。それで彼女にした事が許されるとは思っていないが、伝えずにはいられなかった。
『ほんとうに わるかった』
彼女の両手が俺の身体を探り当て、確認するように腕や胸に触れていき、最後に俺の顔を包み込んだ。
顔の形を確かめるように触れていたかと思うと、急に胸元に抱き寄せられた。
首元にフランの腕が絡み付き、フランの胸に顔を埋める形になる。フランの匂いがする、俺が犯してしまった罪の匂いが。
フランは俺の髪を撫でる。そのまま、しばらく俺を離してくれなかった。
柔らかい彼女の乳房が俺の頭を包み込んでいる。性欲が首をもたげかける。だが、もう力付くで彼女を押し倒す気にはならなかった。
ここには俺に剣を向けてくる奴は居ないし、見守ってやらなければならない死者も居る。
俺はここに居ていいし、墓守としてもそれなりに必要とされている。誰も支配しようとはしてこない。誰も支配する必要は無い。何も不安に思う事も無いのだ。
もしかしたら、本当に彼女は嫌がっていなかったのかもしれない。でも俺は彼女の身体に腕を回すことは出来なかった。
しばらくそうしていたあと、フランは俺を解放してくれた。
《デュラハンは、首が無いと精を溜め込んでおけないのです
だから私はまた近いうちにあなたを襲ってしまうと思う》
その指は落ち着きなく白紙の上を行ったり来たりしていた。
『おれなんかで いいのか』
少し躊躇してから、彼女の手が文字を綴る。
《ごめんなさい。こんな傷だらけで顔が無くて筋肉ばかりの女、嫌ですよね》
『フランのからだは きれいだよ』
彼女の手が止まる。
『おれのような くずには もったいない』
《あなたは私を助けてくれた。首の無い身体だけの私を助けてくれた。
普通だったら不気味がって放っておきます。あなたは優しくて》
フランの指が、優しく俺の指に絡み付く。
《何て書けばいいか分からない。でも、自分を悪く言わないで》
違う。彼女は俺を勘違いしているんだ。
戦争とはいえ俺は平気で人を殺して、嫌がる女を金で買って好きにして。……弱くて、身勝手で。
フランの両手が俺の顔に触れ、包み込む。
そしてまた鉛筆を掴んで。文字を綴る。
《そんな悲しい顔しないで下さい》
悪人にさえなり切れない。どうせなら笑いながら彼女を犯して、彼女から憎まれた方が楽なんじゃないだろうか。
でも、それだけはしたくない。この人から嫌われたくない。
『きみをたすけるた
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