Phase2 -仲間-

 『ブオッ!!!!』

 ワーウルフが繰り出した爪が空を切りながら裕に向かってくる

 それを左手で弾きながらナイフを彼女の腕---腱や血管のある手首を狙って振るう

 それを彼女は弾かれた方向に飛んで避ける

 そして間合いを取って睨み合い、タイミングを計ってワーウルフが襲ってくるとそれに応じる...

 



 


 一体何回繰り返したかも判らないくらい同じことを続けている

 二人が闘い始めて既に10分、決着は一向につかずにいた

 


 「はぁ...はぁ...」

 荒い息を整えながら、息一つ切らさず隙を覗う少女に裕は信じられない気持ちで一杯だった

 子供の頃から続けてきた空手、入隊してから骨身に染み込ませた格闘術、それを目の前の少女はいとも簡単にかわし、それどころか隙あらばと的確に急所を狙って攻撃してくる

 自らの姿を見れば迷彩服の至る所が掠めた鋭い爪によって切れており、防弾素材で編み込んだ防弾ベストにすら切れ目ができている

 さすがに防弾プレート(防弾ベスト自体は砲弾の破片や拳銃弾程度の防弾機能しか無く、中にセラミック製の防弾プレートを挿入することでライフル弾を防ぐことができる(ただし重さは10kg近くになる))は貫通しないようだが避け損なったらかなり危険だ

 対して目の前のワーウルフは掠り傷一つ無い

 演習での疲れや、防弾ベストの重みで動きが鈍っているとはいえ一撃も当たらない、裕は少しずつ追い詰められていた


 しかし、ワーウルフもまた焦っていた

 目の前にいる獲物が予想以上にしぶとく手強い、隙を覗いつつも攻めあぐねいていた


















 
 (...体力が限界に近い...何とかしないと...)

 長く続く闘いに裕の疲労はピークに達していた

 恐らく、次の攻防で全てが決まる、しかし自分は圧倒的に不利だ

 逆転する方法は何か無いか...睨み合いながら必死に打開策を模索する

 (...小銃はあの子の後ろ...拳銃には弾は入ってない...何か...!)

 

















 ---あった、まだ出していない『武器』が



















 「ガアアアァァァァァッ!!!」

 裕が閃いたのとワーウルフが飛び出したのはほぼ同時だった

 ---やるしかない、そしてチャンスは1度きり---




















 ナイフの振りにくい左側を狙って爪を剥き出しにした右手が来る、それを裕は...



















 『ガキィィィィィン!』

 

















 ---受け止めた、出していなかった『武器』...『刃の無い銃剣』で



















 「!?」

 弾かれるのではなく、止められることは考え無かったであろう少女は慌てて退がろうとする、と、その瞬間彼女の動きが鈍った

 その一瞬の隙を裕は見逃さなかった

 銃剣を捨て、左手で彼女の右手首を掴む、右足で足を払い、体制を崩したところでナイフを握ったままの右手で胸元を重心をかけて地面に向けて力の限り押す









 『ドンッ!』


 鈍い音と共に倒れた彼女に馬乗りになり、右手を抑えながらナイフを首元に当てる

 「はぁ...はぁ...はぁ...」

 (...勝った...)

 荒く息を吐きながら頭のガッツポーズを決めた

 自衛隊の『首返し』と呼ばれる技の応用だったがうまくいった

 普段は固くて鞘から抜けにくい銃剣が素早く抜けたことも助かった

 目の前で押し倒された少女は信じられないという風に目を見開いてこちらを見上げていた


 「はぁ...はぁ...動くな...お前の負けだ...」

 言葉が通じるか判らなかったが、この状態からなら何を言われたかは判る筈だった


 「っ!...!」

 果たして、彼女の顔は悔しさに満ちたものに変わっていった

 (まだ暴れる気か...?)

 何が起きてもいいよう身構えていた

 「...............!!!」

 しかし、この変化は予想していなかった



















 ---涙---






 目の前の少女はぼろぼろと大粒の涙を流し始めた

 「ぅ...っく...う...」

 悔しさで染まっていた顔がみるみるくしゃくしゃになっていく、そして...




















 「ぅ...ウエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェンッ!!!!!!!!!!!!!!!!」





 大声で泣き出してしまった

(...え?え?何で?)

 最早、先ほどまでの闘気のような気迫の欠片もない少女に、裕は困惑を隠せ
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