愛するあなたと幸せに

『おかけになった電話番号は現在電波の届かない所にあるか、電源が入っておりません』

ボクは携帯の通話終了ボタンを押すと、そのまま携帯を布団に向かって放り投げた。

「ハルちゃんのばかぁ、なんで電源切ってるんだよぉ」

泣きそうになりながらお気に入りのぬいぐるみを抱きしめる。ボロボロで何回も修繕した跡があるそれはボクにとってとても大切なものだ。
子供の頃にハルちゃんがボクに似ているからという理由でプレゼントしてくれた青い鳥のぬいぐるみ。その時からずっと宝物で、破けたときにはハルちゃんが文句を言いながらも直してくれて、これを抱きしめていればハルちゃんがそばにいてくれる気がして安心する。

「素直に好きだって言えなかったボクが悪いんだけどさぁ」

ボク達が恋人ごっこなんて曖昧な関係になったのは半年前の今年の6月ことだ、告白に失敗したハルちゃんにボクが自分の気持ちを素直に伝えられずに恋愛特訓と称して半年の疑似恋人体験を強制したのが原因だった。
それももう今月で終わり、もしかしたらハルちゃんはこれでようやく終わると清々しているのかもしれない。
そんなことを考えると不安で押しつぶされそうになってしまう、あの時ちゃんと好きだといえたら……そんなことばかり考えが頭の中をぐるぐると回り始めてしまう。

「せめて、声だけでも聞ければいいのに」

そう思っていると先ほど投げたボクの携帯の着信音が鳴り響いた、ディスプレイには松岡 晴彦の文字、ボクの彼氏であるハルちゃんからだった。
ボクはあわてて携帯をとって電話に出る。

「もしもしハルちゃん? 元気だったー?」

不安を悟られないように明るく、元気な自分を装う。

『時鳥、何のようだよ? 俺も忙しいってのに』
「いやー、最近ハルちゃんがバイトばっかりで全然会えないから心配で」
『あー……悪い悪い、時鳥に心配かけるつもりはなかったんだよ』
「駄目だよー、彼女に心配かけたら。本当の恋人にはいらない心配かけないようにね」

ボクは何を言ってるんだろう?彼の本当の恋人になりたいのはボク自身なのに。

『そう……だな、俺の恋愛トレーニングだったな』
「まったく、世話が焼けるんだから。もうすぐこれも終わりなんだからさ、誰か好きな人はできたの?」

嫌だ、聞きたくない。それを聞いてしまったら、ボクはもうどうすればいいのかわからなくなるのに。

『まぁな、でもまた脈が無さそうなんだよ……やめとこうかなって思ってさ』
「駄目で元々なんだからさ、告白しちゃいなよ。それで断られたらまたボクがトレーニングしてあげるからさ」

ハルちゃんの言葉を聞いて安心したボクがいる、だってまた彼が振られたらまだ恋人ごっこは続けられるのだ。
同時にそんな自分に嫌気が差した。何で大切な、大好きな人が恋した人に振られて傷ついてしまうのを喜んでしまっていることに。

『本当に、振られたときは時鳥が特訓してくれるんだよな?』
「もちろんだよ、だってハルちゃんはボクの……ボクの大切な人なんだから」

ボクはハルちゃんに嘘をついて、傷つけて、自分の事だけ考えて、なんてずるい奴なんだろう。

『もしも成功したときのことを考えてクリスマスまでに間に合うように……今月の9日に告白するよ』
「えっ……その日は……」
『どうかしたか?』
「ごめ……ん、なんでもないよ。がんばってね、おうえん……してるよ。そろそろ切るね、じゃあ」

ボクは通話を一方的に切る、涙が抑えきれなくなって元気なふりなんて出来なくなってしまっていたから。
今月の9日……つまり、12月9日はボクの誕生日だ。
その日に一番一緒に居て欲しい人にボクは傍に居てもらえないどころか、祝ってすら貰えないわけだ。
今まではなんだかんだでハルちゃんはボクの誕生日を祝ってくれたのに、ズルをしようとしていたボクには相応しい報いだよ、まったく。
それでも、自業自得だと分かっているのに溢れる涙は止まらない、ボクは自分の幸せだけを考えてハルちゃんの幸せを考えなかったからエロス様が罰を与えたんだ。





12月 9日

結局あの日から数日ボクは碌に食事もとらずにぬいぐるみを抱いて寝るだけ。たまに奇跡が起きてハルちゃんが来てくれないかなんて願うくらいの行動しかとっていなかった。
そして今日に限って携帯の着信音がまだ昼にもなっていないと言うのにカーテンを閉め切って真っ暗な部屋に鳴り響いた、ハルちゃんからだ。
どうせ、今から告白しに行くと言う連絡なのだろう。出る気も起きなかった。
しばらくするとアパートのチャイムが響く、無視して不貞寝を決め込む。しかしチャイムはしつこく何度も鳴らされる。
面倒くさいと思いながらもしょうがなく玄関に向かいドアを開けると、そこにはボクの予想外の人物が立っていた。

「よっ、久しぶり……って顔
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