カイの悩み

俺は大きなため息を吐いた。あの時は逃げるためとはいえ、とんでもない約束をしてしまった。
確か子供の頃はレンの家によく泊まりに行っていたがあの時は子供だったからできたのだ。
しかし今はお互いに成長した、異性を自分の家に泊まらせたら間違いが起こる可能性だってある。
それでもレンが俺を家に泊まらせるのは友達として信頼しているからだろうか?もしくは俺のことを異性として誘っているのか?
前者だとしたらその期待に応えなければいけない、しかし後者だとしたら……俺はどうすればいい?
いや待て冷静に考えろ俺はレンの事をどう思っている?
少なくとも嫌いではない、おそらく好きなのであろう。
だが俺にはこの『好き』が友達としてなのか異性としてなのかよくわからない。
やはりファルコの言うとおり俺は恋愛の素人だからか?
そんなことを考えているとトントンとドアを叩く音が聞こえた。
「玄関でカイを呼んでも返事が無かったんで勝手に上がってきたんだけど、部屋に入っても良い?」
声からしてレンであろう、どうやら考え事に熱中していて気づかなかったようだ。
「あぁ、別にいいぞ。」
ガチャリとドアから音がしてレンが部屋に入ってきた。
「あのさ、カイが今日泊まることをお母さんに話したらお母さんが張り切って『カイの好きな物を作ってあげるから聞いてきなさい』って言われたから来たんだけど。」
「そうだな、いつも通りのご飯が食べたいって伝えておいてくれ。それとレンちょっと質問しても良いか?」
「ん?どうしたの?」
「いや、お前は恋をしたことがあるか聞きたいだけだ。」
自分でも何でこんな事を聞こうとするのか分からなかった。
「……えっと、コイって恋愛のこと?」
「当たり前だ。どうやって魚の鯉をするんだよ。」
「れ、恋愛の方ね。ぼ、僕だって女の子だから恋を一つくらいしてるよ。」
俺の胸の奥で締め付けられるような痛みを感じた、この痛みが俺と同じで恋愛を知らなさそうだったレンにショックを受けたからなのか、俺がレンに恋しているからレンの恋した奴に嫉妬しているからなのか俺にはわからなかった。
「……恋ってどんな気持ちになるんだ?」
「その人と一緒に居ると楽しくて、その人と二人っきりでいると胸がドキドキするの。」
「もしも俺がお前の好きな人だったらお前はやっぱり胸がドキドキするか?」
「……えっ!……そ、そりゃもう恋愛の話になってからドキドキきどころかバクバクしてるよ……ぼ、僕が今バクバクしてるわけじゃなくて多分だよ多分。」
「……そうか、参考になった。」
俺はこれ以上この話を続ける気になれなかった、レンをこんなにもドキドキさせる奴が憎かった、それと同時にそいつが羨ましかった。
「カイどうしたの?」
「……少し考え事をしていただけだ。」
「何を考えてたの?僕にも教えて。」
「お前には関係ない事だ。」
そのことを意識しているためかレンに対する態度が冷たくなってしまう。
自分でもこんなことをしても意味が無いことぐらい判っている筈なのに。
「むぅ、関係ないことなら別に話しても良いんじゃないの?」
「お前に言うと色んな人に知られそうだからダメだ。」
「そんなこと無いよ僕はそんなに口は軽くないよ。」
「つまり口は軽くないが胸は軽いわけだな。」
「……それは僕がペチャパイって言いたいの?これでも僕だって結構気にしてるんだからね。」
「気にしてたのか!お前のことだから『貧乳はステータスだ、希少価値だ。』とか言ってポジティブに考えてると思ってたよ。」
いつからだったのだろう?レンの明るさに励まされていたのは。レンはいつでも俺が落ち込んでいるとすぐに駆けつけてきてくれて励ましてくれた。
時にはそれをレンが自分の事を馬鹿にしているのだと思って怒鳴りつけた事もあった、それでもレンは笑顔で励ましてくれた。
もしかしたらレンの明るさにも俺は憧れを抱いているのではないだろうか?
だとしたら俺は欲張りすぎなのだろうな、我慢をしないといけないはずだ。
「僕ってそんなに悩みとか無さそうに見えるの?」
「俺からしたらな。」
「ちょっとショックだなぁ、これでも悩み事あるんだよ。」
「悪かったよ、少し冗談を言っただけだからそんなに落ち込むな。お前は落ち込んでる姿よりも明るくしてる姿の方が可愛いからな。」
無意識に可愛いと言う言葉が出た。
その言葉に俺もレンも少しの間キョトンとしていた。
「な、なな、何でいきなりそんなにクサイ台詞を言うのかな、そんな事言うと勘違いしちゃう女の子だっているんだよ。」
「悪い、自分でもなぜ可愛いなんて言葉が出たのか分からない」
「そうだ、もう僕の家に行こう。ほらお母さんも待ってるだろうから。」
「そうだな、うん、それがいい。」
なんで無意識に『可愛い』と言ったのだろう?いや分かっているはずだ、俺の一番奥底
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