提灯の明るさを

あの日、俺はずっと使われてなかった蔵を掃除しろと親父に命令されて、蔵をのぞいた時に使われてなかったはずの蔵の中で女の子が眠っていた。

作り物なのだろうか、そう思い触って見ると温かいしっかり息もしている。……うん生きてる女の子だね、何でこんな所で寝てるんだよ。どっかから迷い込んだのか?でも扉にはしっかり鍵が掛けてあったよな。

「旦那さま?」

女の子はどうやら起きたようで、俺の事を見て旦那さまと言ってくきた。寝ぼけているのだろうか。

「旦那さま、ボクは旦那さまに使われていた提灯でございます」

何を言ってるんだろう、この子は。俺はこの子と初対面の筈なんですけど。

「旦那さま、ボクをまた使ってくれるんですね。嬉しいでございます」

そのまま俺に抱きついてくる女の子。絶対なにか勘違いしてる。

「ねぇ、キミなんか勘違いしてないかな?俺はキミと会ったこと無い気がするんだけど」

「そんなボクが旦那さまを見間違える筈が無いのです。ところで旦那さまお若くなられました?」



「つまり貴方は旦那さまのご子息様と」

今は親にこの子が見つからないよう移動し俺の部屋にいたる。

「まぁ、そんな感じかな」

正確にはただの子孫なんですけどね。どうやらこの子は俺のご先祖様が使っていた提灯らしい。まぁ魔物がいる今じゃ付喪神って言われたら信じるしかないか。

「でしたらボクの所有権は貴方にあるのです。つまり今から貴方がボクの旦那さまなのです」

この子はいきなり言い出すんだろう。俺が旦那さまって、冗談だろ?

「ボクは提灯ですから、夜を明るく照らせますよ。便利でしょ」

「いや、今は蛍光灯とか懐中電灯とかあるから提灯ってなんか」

「おう?何です蛍光灯やら懐中電灯って?明るいのです?」

彼女は目を輝かせて聞いてくる。自分も明かりを照らす道具として気になるのだろうか。

俺は部屋にあった懐中電灯を照らしてあげる。

「おぉー、これは提灯よりもずっと明るいですね」

自分よりも明るくて落ち込むかと思ったら、むしろ感心してるし。

「お前だって照らす道具なんだろ、自分よりも性能がいいものに嫉妬しないの?」

「そうですね、確かにこの子はボクなんかよりもずっと明るいですけどボクにはこの子にできない事もできますから。ボクは炎で輝いています、人を温めることもできますよ。ほんの少しですけど」

俺は彼女が羨ましくなった。自分より優秀な人を恨んでばっかりいる、俺にできない、底抜けに明るい考えだったから。

「ところで旦那さま、ボクが蔵にいる間にこの世は遥かに変わりました。この子みたいな道具をボクに紹介してくれませんか!」

「ああ、別にそん位いいけど」

彼女にいろんなものを紹介する、テレビや車、掃除機にパソコンなど見せるたびにオーバーリアクションする彼女は正直五月蝿かった。

途中で親に見つかり、彼女は見た目は少女なので変な勘違いをされないかと思っていたが事情を話すとあっさりと受け入れてくれた。母親にいたっては「あんた彼女いないんだからこの際この子を彼女にしたら?良い子そうだし」とまで言う始末だった。


……

…………

………………

…………

……


「旦那さま、母上様に肉じゃがの作り方を教わりました。これでボクにもほっくりとした美味しい肉じゃがを作れるはずです」

もう彼女が家に馴染んで一週間は立つ。ってか母親に料理とか習ったり、俺の部屋に掃除機かけに来たり馴染みすぎだろ、お前。

「ところでお前さ、その体が不便だなとか思ったりしないの?」

「そうですね、提灯だったころは手も足も無かったですからね。自分で歩けたり物を掴んだりできるというのは便利なものです。それに……旦那さま手を出してみてください」

俺は彼女に言われるまま手を彼女に向ける。彼女は両手で俺の手を包み込む。

「旦那さま、温かいでしょ?ボクがただの提灯だったころにはできない事です、ボクがただの提灯だったころにはボクの火に触れれば火傷しちゃいますから」

まぁ、そりゃそうだろうよと思いながら俺は彼女の話を聞く。

「それに人は一人で出来ないことを二人なら簡単に出来てしまう、素晴らしい生き物なんですよ。と言ってもこれはボクの元旦那さまのよく言ってたことなんですけどね」

「なあ、俺の曾爺さんだか曾々爺さんの話してくれない?」

俺はふと彼女の前の所有者であった自分のご先祖様が少し気になった。

「そうですね、外見は旦那さまとそっくりでしたよ」

彼女は俺の隣に来てそっと座る。

そうか、だから彼女は俺を最初に見たとき旦那さまって言ったのか。

「他にはですね底抜けに明るい人でした、貸したお金が返ってこないときは貸した相手が無事でいるだろうかなんて心配もしたり、色々と押し付けられて
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