二つの月の、黒い猫



──黒い猫は、不幸の象徴と言われているらしい。

そうかもしれないと、どこかで思っていたんだ。








俺は、このマンションに一人暮らししている、ごく普通の大学生。
そう、毎月親からの仕送りで切り詰め切り詰め、たまにアルバイトを始めお金を稼ぎ…と結構ギリギリな生活を送る、普通の大学生。

だった。

「お帰りなさいっ!ご飯が先?お風呂が先?それとも…」
「──っ?!お、お前…」

今日も大学の講義を終えて、このマンションに帰ってきた。
鍵をドアノブに差し込み、玄関に入った、矢先がこれだ。
誰かに見られているのではとビクビクする。

普通の大学生をやめた理由が、俺を出迎えたこの黒髪ボブカットの少女にある。

彼女はヒトでは無かった。
ワーキャットと呼ばれる、猫がヒトの姿に成った『魔物娘』…と、部室に置いてある本に書いてあった。
彼女は黒猫のワーキャットで、頭に生えた猫耳は黒、艶めかしく揺れる尻尾も黒、まるでコスプレの肉球手袋、肉球ブーツのような…しかし実際に生えているらしい猫の手と足も黒だった。
しかしその肌は対比するかのように白く絹のようで美しい。
黒のシースルーは殆ど透けていて、体のラインなどは勿論ながら、くびれたウェストや綺麗なお尻なども殆ど丸見えの状態である。
しかし最大の特徴と言えば、スイカのような大きな胸も、淫猥で魅力的な股も、そして自らの視界すらも隠すように巻かれた『黒い包帯』。
全身に巻かれているが所々程度であり、それがより一層色気を放っている要因となるに相応しい。

「──あっあっ、でもとりあえずは抱きしめてー♪私、貴方の帰りをずっと待ってたんだよっ」
「わかった、わかったから!とりあえず鞄とか上着とか"置かせて貰って"もいいか?」
「いやん…"犯せてもらって"もいいだなんてエッチぃ…でも、貴方なら…良いよ…♪」
「そーいうことじゃ…あーもー面倒くさ…」

結局、俺の許可を待つまでもなく彼女は俺に抱き付いた。
体温が平均的な人間よりも温かいため、もの凄い暑いですハイ。

彼女と出会ったのはほんのひと月前だった。
今よりまだ涼しい頃だったから、部屋の窓を開けて涼しんでいた時…彼女が入ってきたんだ。

彼女はその時はまだ普通の猫の姿だった。
いや、普通の猫と言えば語弊があるな。
黒い包帯でぐるぐる巻きで、まるで重傷を負っているかのようだった。

『っ!?ね、猫か…って、お前大丈夫か…?』

そういうと彼女は元気な足取りで俺にすり寄って来た。
大丈夫のようだ…と安堵すると共に、その可愛さにほのぼのした俺は食べていたフルグラを彼女に与えてやったのだ。
あ、猫にとっては毒になる食べ物もあるので、実際に与える場合はネットでよく確認してからにしてね。

その後も一向に出て行く様子も無かったが、何せやたら大人しく利口で、じゃれてくる猫を出す理由も無く、飼っても良いかなぁとも思うほどだった。

俺が布団に潜ると彼女も一緒に入ってきて、所謂添い寝の形になったんだ。
猫だと思って特に何も考えず、身体を触ってもふもふしていたらいつの間にか眠っていて…。

で、変な感じがしてふと目が覚めたんだ。

…目を開けて、ビックリ。
なんせ隣に、女の子が寝ているのだから。

……はやる気持ちをなんとか抑えた俺はベットから這い出て部屋の明かりを付けた。すると、

『うにゃあっ?!びびびっくりしたー!いきなり明かり付けないでよぉ…あっ』

………。

『えっと…何かのサービス…ですか?』

…あまりのことに頭が混乱して、思わず意味不明な言葉が飛び出したのであった。

…それからというもの、彼女は俺の部屋に住み着いている。
平穏な日々はすっかりどこかに吹き飛び、毎日が刺激的な日々になった…といえば聞こえは良いが、ただでさえギリギリの食費が更に圧迫されることになっている。
でも今の悩みの種と言えば、それくらい。

「ほら、ご飯だぞ」
「わーい、ふるぐらだー♪」

俺は器を二つテーブルの上に置くと、その器の中に今日もフルグラを注ぐ。

…まるで、ペットに餌をやるみたいだな。
違う点は、俺も同じものを食うってことだけど。

「いただきまーす」
「いっただきまーす!」

それでも彼女は美味しそうに頬張ってくれる。
その食べっぷりに嬉しくなってにやけると、俺もフルグラを口に運んだ。

「ん…そういえば今更だけどさ、目のところまで包帯してるけど、目は見えてるの?」

俺は咀嚼しながらそう言った。
彼女も持ったスプーンを止めずに口に運びながら、もごもごと応える。

「はいひょうふー、ひゃんとみえへるよー。はほへはー…んぐっ。貴方、紫色の眼鏡してるでしょー、青色の服着てるでしょー…」
「…えっ色までわかるのか?すげぇな…」

…や、やっぱり普通じゃねえよな
[3]次へ
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33