閑話〜過去と義父〜

「ふぅ……」
ライカとメリルの熱烈な求愛が終わり、一人意識を残している勇一は疲労の溜息を吐く。
慣れない戦闘に加え、操縦席に淫らな香りが籠もる程に濃厚な交わりの疲れからか、勇一に寄り添うように二人は安らかな寝息を立てている。
安らかな寝息を立てる二人を愛おしそうに見つめながら勇一は過去に耽る。

灰崎勇一もまた、本来なら存在し得ぬ魔術の才能で両親から捨てられた過去を持ち、その才能が目覚めたのは勇一の叔父が彼の家を訪れた時だ。
温厚な両親は叔父が家を訪ねると揃って喧嘩腰になり、顔を合わせる度に両親を怒らせる叔父を当時四歳の勇一は嫌っていた。
その頃は事情を知らなかったが叔父は無類のギャンブル好き、而も大穴を狙っては何時も外し、偶に当たっても調子に乗って大穴を狙っては外して、を繰り返していたそうだ。
実際、危ない金融業者に手を出しており、何時か東京湾に浮かぶか鮪漁船にでも強制的に乗せられるのでは? と両親も呆れていた程だ。

『なぁ、勇一君。お前さんからも兄貴に何か言ってくれよ』
その日、金の無心に来たのはいいが借りる事も出来ずに追い返された叔父は、藁にも縋る思いで父に金を貸してくれるよう頼んでくれ、と勇一に頼んだ。
無論、そんな事を言っても幼い勇一にはさっぱり訳が分からず、彼を内心嫌っていた事もあって勇一は首を横に振り続けた。
『ぐ、ぎぎぎ……こんのガキぁ、人が頼んでるっつぅのに……一度大人の怖さってモンを教えてやろうか、あぁん!?』
首を横に振り続ける勇一に叔父はしつこく食い下がるが、頑なに断り続ける彼にとうとう痺れを切らしたのか。
場末のチンピラじみた声を上げながら叔父が勇一の腕を掴んだ、その時だ。

『ぎゃあぁぁああぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁあああぁぁっ!?』
迸る電流、響く悲鳴……勇一の腕を掴んだ瞬間、掴んだ場所から叔父に電流が走り、全身を駆け巡る高圧電流に叔父が絶叫を上げたのだ。
その絶叫に両親が慌てて飛び出した時、其処には白い煙を全身から昇らせて気絶している叔父と突然の絶叫に困惑する勇一。
何が起きたのかは全く分からないが放っておけば危ないのは分かる。
ピクピクと痙攣する叔父を前に両親は急いで救急車を呼び、幸い命は取り留めたが叔父は全治数ヶ月の重傷を負った。

この一件を機に勇一は魔術に目覚め、目覚めてからの彼は人間電磁石と化した。
一度くっ付くと大人が思いっきり引っ張らないと取れなくなる程に強力な磁力、ゴム手袋無しでは手を近付ける事も出来ない程の電流。
平時はこの程度で済むが、勇一の感情が不安定になるのに比例して磁力と電流は強くなり、周囲の電化製品が一斉に爆発する事もあった。
この二つを抑え、制御する術を幼い勇一が持っている筈も無く、何時如何なる時もゴム製の雨合羽が欠かせない生活を勇一は送るようになった。
そんな勇一を両親は恐れるのは必然……勇一を養護施設に送ろうかという話も上がったが、人間電磁石と化した彼を引き取ってくれる施設は皆無。
何時爆発するかも分からない爆弾を抱えての生活に両親は疲弊し、存在するだけで他人に迷惑を掛けている事を自覚した勇一は部屋に籠もるようになった。

『君が灰崎勇一君だね?』
そんな生活を送っていた勇一の許に、ある日突然フードの付いたボロボロのマントを纏い、車椅子に座った達磨のような男が訪れた。
その異様な風貌に勇一は驚きと怯えを隠せなかったが、そんな彼に男は言う。
勇一を養子として引き取りに来た、と。
その言葉に勇一は首を傾げ、首傾げる彼に男は優しく語り続ける。
両親は勇一を手放す事を決め、孤児となる彼を自分が養子として引き取る事にした、自分の許には彼と同じ境遇の子供が集まっている。
呆然とする勇一に男はくすんだ銀色の右手―この手が義手だと知ったのは後々の事だ―を差し出し、差し出された銀色の右手に彼はおずおずと手を伸ばす。
『さぁ、私達の家に行こうか』
差し出された手をギュッと握る勇一に男は穏やかな笑みを浮かべ、その微笑みに釣られて彼は久し振りの笑みを浮かべた。

コレが勇一と義父の出会い、養子として引き取られた後の勇一は義父から魔術と戦う為の技を教わった。
血の繋がりが無い事を忘れてしまう程の愛情を注いでくれる義父、その大恩に報いる為に勇一は只管己を磨き、自身の身体を顧みる事無く義父の用意したバイトに励んだ。
当時の勇一はまだ生身であり、彼が得意とする超高機動射撃戦は彼の身体に絶大な負担を与え、瞬く間に彼の身体は限界を迎えた。
限界を迎えた身体の治療に専念するよう告げられたのは勇一が一四歳の時、義父の通告に勇一はまだ戦うと告げた。
遠くで泣いている誰かを助ける為に近くの誰かを殺す、理由は立派でも行い自体は罪。
今まで数えきれない程の罪を背負ってきた、コレからも罪を背負って生きていく。
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33