後編

―ピシッ……
魔物と交流を持っていた罪で投獄されたライカとメリル。
二人が魔物化したのは投獄から三日目の夜、処刑を待つ二人の耳に硝子に罅が入るような音が届き、その音で顔を上げたのが発端。
『あり? アテ、座標間違えたっぽい?』
顔を上げた途端、二人の間の空間に突然亀裂が入り、其処から同性でも思わず見蕩れる程に整った顔立ちを持つ美女の首が現れたのだ。
亀裂から出した首を動かして周囲を見渡し、微かな困惑を浮かべる美女。
そのあまりにも非現実的な光景に二人は目を見開いて言葉を失う。
『ま、取り敢えず潜入には成功したみてぇだし。んっ、しょっ……と』
言葉が出ない二人を尻目に美女は一度亀裂に首を引っ込めた後、まるで母体から産まれる胎児の如くズルリと全身を現し、
『どぅべっ!?』
見事着地失敗、顔面を思いっきり床にぶつけた。

『痛たたた……ん、何だよ? アテは見世物じゃねぇぞ』
床にぶつけた鼻を擦りつつ立ち上がり、呆然と見つめるライカとメリルに気付いた美女はジロリと睨みつけるものの二人は全く動じない。
白地に黒い縞の入った無骨な防具を纏った、軽装の女軍人と言える風貌の美女の所々にはヒトならざるパーツ。
頭には捩じれた黒の二本角、腰には蝙蝠じみた白い翼とハート型の先端を持つ白い尻尾、何処からどう見てもこの美女は魔物であり、こんな特徴を持つ魔物は一種類しかいない。
教団の仇敵、憎き魔王の愛娘・リリム。
同性すら魅了する美貌を持つリリムを前に動ける者は皆無、二人が動じないのもリリムの美貌に魅入られているからだ。
『……あ〜、あ〜、成程ね。ホレ、何時までもアテに見惚れてんじゃねぇ』
『『痛っ!?』』
動じないどころか全く動く気配を見せない二人を見て漸く気付いたらしく、軍装リリムは二人の頭を軽く小突いて正気に戻す。

『んで? 此処はネルカティエ城の何処さ? ついでにオメェ等の事とかも教えちくり』
『え、えぇ……』
地味に痛かった拳骨に頭を押さえるライカとメリルに軍装リリムは場所や名前等を尋ね、その問いにメリルが答える。
此処はネルカティエ城の地下牢、自分達はネルカティエのシスター兼歌手。
今は魔物と交流を持っていた罪で投獄され、静かに処刑を待つ身である。
『ファタ姉ぇの所にアンドロイド大量にブチ込んだ挙句、魔物と文通してただけで死刑にするたぁ、此処の連中は頭の大事な螺子がまとめてブッ飛んでんのかよ……』
メリルの話を最後まで聞いた後、軍装リリムは王族とは思えない粗野な口調で吐き捨て、その美貌は嫌悪と憤激で激しく歪んでいる。
嘗ての性質を持っていたのなら、中てられただけでショック死するのでは。
そう思える程に軍装リリムの放つ怒気は凄まじく、その怒気に二人は息を呑む。

『うし、決めた。下調べで来たけど、そいつぁ後回しだ』
何を決めたのか、ライカとメリルがそう尋ねようとした瞬間だった。
軍装リリムは魔力を両手に集め、魔力集めた右手をライカに、左手をメリルに向ける。
訓練を受けたとはいえ、素人同然である二人でも分かる程に膨大な魔力。
その魔力をどうするつもりなのか、と問いたくても、軍装リリムの放つ圧倒的な威圧感に呑まれて口が動かせない。
『オメェ等を、オメェ等に相応しい魔物にする。んで、だ……』
腹に響くような低い声で紡がれた一言に二人は
『この心底ムカつく国を徹底的にブッ壊しちまいなぁ!!』
息を呑む暇も無く膨大な魔力に包まれ、二人の意識は紫色の闇に落ちた。



「……という訳なの」
「成程。つまり、君達は魔物化したばかりのルーキーという事か」
自分の右側を飛んでいるメリルから魔物化の経緯を聞き、勇一は納得した表情を浮かべる。
意識を取り戻した後、自分の魔物化した姿に驚きながらもライカとメリルは軍装リリムに『勇一を待つから此処に残る』と告げた。
二人の発言に早速暴れるだろうと思っていた軍装リリムは呆気に取られたが、待っている間に看守等に見つかって騒ぎになるのを防ぐ為に彼女は二人に変化を教えた。
教わった変化を二人が何度か試している途中で、軍装リリムは『事が済んだらアーカムに来い』と言い残して去ったそうだ。
「るーきー? 勇一君、るーきーってどういう意味なの?」
「私の世界の言葉で『新人』という意味だ」
台詞の中に混ざっていた聞き慣れない単語にライカは首を傾げると勇一がすかさず説明し、その意味にライカは勿論、彼を挟んで隣を飛ぶメリルも頷く。

さて、地下牢から脱出した勇一達三人は兵士達を退けて城門を抜け、現在非番の兵士達が寝泊まりする宿舎の集まった、通称・宿舎通りを駆け抜けている。
因みに、ネルカティエはこの宿舎通りとネルカティエ城、教団専属の鍛冶職人達が過ごす工房区画、食料を生産する為の農業区画の四区画に分けられている。
城内の騒ぎが伝わっている
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