後編

「ふわぁ〜はっはっはっ! 貧弱、貧弱ぅぅ!!」
不思議の国の存亡を賭けた戦い。
その最中で武人は周囲を囲むアンドロイドを罵りながら彼等を圧倒し、既に彼の周囲には人型のオブジェと化したアンドロイドがざっと見ただけで十数体程は転がっている。
雄叫びで己を鼓舞しながらアンドロイド達は武人に殺到するが、機械化された視覚ですら捉えきれない武人の神速のフットワークに翻弄される。
不規則なステップで武人はアンドロイド達の間を駆け抜け、隙を見ては指輪を嵌めた拳でアンドロイドの鋼鉄の身体を薄紙宜しく打ち砕く。

武人の戦闘スタイルは魔術を併用した我流の拳闘術……武人は重力を操る魔術師であり、その神速のフットワークと鋼鉄を砕く凶悪な拳は弛まぬ自己研鑽と重力制御の成果だ。
周囲の重力を軽減する事で為し得る神速のフットワーク、打撃の瞬間に重力を乗せた拳は技が無くても充分な程だが、武人はソレに胡坐を掻く事無く常に自己研鑽を重ねている。
結果、元の世界での話になるが、魔術無しでも武人にはボクシングの世界チャンピオンに輝く事が出来る程の実力を持つ。
性能頼みで力任せに攻めるアンドロイド達は武人から見れば自己研鑽を面倒臭がる怠け者、そんな怠け者に彼は負けるつもりは無い。

「ふんっ!!」
気合の一声と共に繰り出される右ストレート……重力を乗せた剛拳は目にも映らぬ速度で顔面に迫り、顔面を拳の形にへこませてアンドロイドは機能を停止する。
右ストレートの直後、立ち止まった隙を狙って別のアンドロイドが剣を振り下ろすが、
「なっ!?」
庇うように突き出された左腕に剣が当たる瞬間、黒っぽい紫色の十字架が盾の如く現れ、硬質ゴムを叩いたような感覚と共に剣が弾かれた事にアンドロイドは驚愕の声を漏らす。
剣を弾かれ、振り下ろした衝撃をそのまま返されて仰け反るアンドロイドに鋼鉄をも砕く武人の拳が迫る。
繰り出された右フックは頬に拳の跡を残しながらアンドロイドの首をグルリと一回転させ、崩れ落ちるアンドロイドに一瞥もくれずに武人は次のアンドロイドに剛拳を振るう。

「むっ……!」
左の盾で攻撃を捌き、右の剛拳で一体ずつ着実にアンドロイドを破壊していると、視界の端に何かを此方に向けて構えるアンドロイドを捉える。
何かを構えるアンドロイドに不吉な予感を感じて其方に視線を向けた武人は、構えられた何かの正体を知る。
アンドロイドが構えているのは大型のクロスボウ、常人では弦を引く事自体が無理そうな代物だ。
機械仕掛けのアンドロイドだからこそ扱えるクロスボウ、放たれる矢は不意に撃たれれば流石に防げそうにない。
先ずはクロスボウを構えるアンドロイドを始末した方が良い、そう判断した武人は此方に狙いを定めている途中であろうアンドロイド目掛けて踏み込む。

「ダークネスフィンガーとはこういうモノだ!」
五指を開き、黒い塊に覆われた右腕を弓引くように引いて猛然と迫る武人に、クロスボウを構えるアンドロイドは慌てるが既に遅い。
「ダァァ―――クネス、フィンガァァ――――!!」
叫びながら武人は黒い塊に覆われた右手を胴体に叩き付け、五本の指が深々と食い込む。
コレだけでも機能を停止させるには充分だが、
「このメリケンサック凄いよ! 流石はアステラのお姉さんんんっ!!」
まるで天に捧げるように武人はアンドロイドを持ち上げ、指が食い込んだ部分を握り潰す。
その瞬間、持ち上げられたアンドロイドが武人の手が突き刺さった部分に『吸い込まれ』、一片の欠片も残す事無く消滅する。
まるでアピールするような一連の動きは傍から見れば致命的な隙なのだが、目前で起きた怪奇現象に残るアンドロイド達は呆然と立ち竦んでいる。
何が起きた? アレは何だ? アレは一体何だ!? と、アンドロイド達の胸中は疑問と驚愕で埋め尽くされているに違いない。

まぁ、呆然と立ち竦むのも無理は無い……武人の右手を覆っていた黒い塊は超重力の塊、『小型のブラックホール』である。
武人が重力を操る魔術師であるのは先述したが、その最奥がブラックホール生成。
重力を一点に集中させる事で武人は小型のブラックホールを作る事が出来るのだが、このブラックホール生成には大量の魔力と集中力を使う。
今の武人では小指の爪サイズの―無論、ソレだけで充分過ぎるのだが―ブラックホールが限度で、右手を覆う程のブラックホールを作るのは無理がある。
ソレを補ったのが武人の指輪で、ファタジナはメリケンサック代わりに使っていた指輪に持ち主の使う魔術を補助・増幅する魔術を付与した。
その結果、武人はより大きな―まぁ、右手に覆わせる程度が限界だが―ブラックホールを作る事が出来るようになったのだ。
因みに、ブラックホール生成時は吸引力を中和する重力で身を守っている為、その制御を誤らない限りは武人自身が
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