後編

「ちぇあぁっ!」
一閃、一閃、また一閃。
教団兵達の隙間を駆け抜けながら、一心は目にも留まらぬ速さで振るう。
『…………』
「御免なすって」
一心が呟くと同時に教団兵達の身体がずれ、ベシャリ…と音を立てて上半分が落ちる。
噴き出る鮮血、満ちる血の臭い、転がる物言わぬ骸。
一心の通った後に残るは骸の山、綺麗に両断された死体が累々と横たわっている。

最初の遭遇から一心はヴェルディールと別行動を取っている。
二手に分かれて動いた方が二人で固まって動くよりも効率が良いと判断したのもあるが、ヴェルディールに自分が人間を殺す所を見せたくなかったのもある。
代替わり以前は兎も角、今を生きる魔物は不殺を絶対の戒律にしている以上、人間が死ぬ場面を見た事は殆ど無い。
精々、寿命を全うしたか、事故・事件の現場に居合わせた時くらいだろう。
軍人とはいえ、人間の死に耐性の無いヴェルディールが目前で人間が死ぬ場面を見たら、ショックで不調を訴えるか倒れてしまうだろうと考慮した上での別行動である。

「居たぞ!」
「堕落した獣よ、死ねぇ!」
「おっと……」
ヴェルディールは大丈夫だろうか、と考えていた一心は耳に届いた怒声で現実に戻される。
怒声の聞こえた方に目を向ければ既に抜刀し、一心目掛けて迫る教団兵達。
両者の距離は目算で五、六メートル程、この距離は既に一心の『射程圏内』である。
「『一ツ撃(ヒトツウチ)』」
迫る教団兵を前に一心は納刀し、抜刀術の構えを取る。
敵を前にして剣を仕舞った一心を教団兵達は胸中で嘲笑うが、彼等の中に魔術を知る者が居れば、一心の仕込み杖に魔力が集まっている事に気付くだろう。
「しぇあぁっ!」
尤も、居たとしても既に手遅れだが……裂帛の気合と共に抜かれる仕込み杖、その一閃は『見えない刃』を飛ばす。
「…………へ?」
「あ、あれ……?」
刃の幅は六メートル程、通りの横幅と同じ幅。
駆け抜ける刃は教団兵達を両断し、何時の間に斬られたのか分からないまま彼等は上下に分かたれ、見えない刃で両断された骸を尻目に一心は気配と音を頼りに走り出す。

一心は仕込み杖を得物とする剣士であり、本来ならば元の世界には存在しない魔術を操る魔術師でもある。
幼少期に突如目覚めた魔術の才能で孤立し、孤立していた所を義父に引き取られた過去を持つ一心は義父から魔術と共に剣技を学んだ。
元々剣の才能があった事もあってか、一心は卓越した剣技を修めた。
一心の剣は兎に角速い……袈裟懸けに斬られても痛みを感じず、上半分がずれ落ちるまで斬られた事に気付かない程に速いのだ。

「緑色の髪、ナナフシじみた風貌……まさか!?」
「な、何で貴様が此処に!?」
「おやぁ……」
痛みを感じる暇も無く死に至る神速の魔剣、とても一七歳の少年が修めたとは思えない技を振るいながらレスカティエを駆ける一心。
すると、一心の姿を見て動揺する教団兵達が一心の前に現れ、動揺を隠せない一団に彼は薄い笑みを浮かべる。
どうやら、この一団はネルカティエ所属らしい……ネルカティエから見れば一心は脱走者、若し何処かで見つけたら捕縛か殺害を命じられていたのだろう。
動揺しているのは、一心がレスカティエに居たのが予想外だったからか。
「ど、どうする!?」
「どうするも何も殺せ! 奴は勇者の役目を放棄した裏切り者だ!」
「お、おうっ!」
動揺を露にしたまま教団兵達は得物を手に迫るが、動揺で動きに粗が多い。
無論、動きが雑な雑兵程度に一心が苦戦する要素は無い。

「『二重巻(フタエマキ)』、へぁっひゃひゃひゃひゃぁ!」
奇怪な笑い声を上げながら独楽のように回転する一心……一対多数に対応した回転斬撃、二回転目の終わりに一心は刀を掬い上げるように切り上げる。
長大な刀身を持つ野太刀なら兎も角、一心の刀は五〇センチ程の一般的な打刀。
両者の距離は二、三メートル程、普通に考えれば届かないが―――
「なっ……」
「冗だ……」
一心の刀に距離は関係無い。
刀身へ継ぎ足すように纏わせた見えない刃が教団兵達を三等分に下ろし、下ろされた彼等へ追い打ちするように彼等の足元から竜巻が起こる。
竜巻に巻き込まれ、舞い上げられながら肉塊と化した教団兵達は細かく切り刻まれ、竜巻が消えると雨のようにミンチ状の肉塊がボタボタと降り注ぐ。

一心は大気を操る魔術師で『一ツ撃』は抜刀と同時に刃状の圧縮空気を発射する居合斬り、『二重巻』はやや離れた位置に竜巻を発生させる回転斬撃。
義父が一心の為に自ら鍛え上げた刀は羽衣のように軽く、切れ味も鋭い上に一心の魔術を補助する効果を持つ、言わば『魔法使いの杖』でもある。
一心の剣が速いのも大気を操って空気抵抗を極限まで零に近付けている為で、羽衣の如く軽い刀身に零に等しい空気抵抗、この二つが一心の剣の速さの秘密であ
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