悪しきを挫き、善きを助ける
強きを討ち、弱きを救う
ソレが義賊という称号
だけど
そんな大層なモノはいらない
ワタシ達が欲しいのは……
―義賊は疾風の如く宝を取り返す―
「いっや〜、警備が当然というか何というかぁ、すっごく厳重なのですぅ」
「無駄口は叩かない方がいいですよ、藍沙(アイシャ)。ボク達の目的は『彼』の奪還、このような所で気を抜いて失敗したら、元も子もありませんよ」
「むぅ〜、魅朱(ミソホ)は真面目過ぎなのですぅ。緊張し過ぎても、失敗するですぅ」
「はぁ……貴方は本当に、口が達者ですね」
会話する二人がいるのは、二人が見ている屋敷の近くにある木の天辺だが、二人が足場にしている木は目算でも一〇メートル近い大木である。
二人は人に近しいが、ヒトではなかった。
藍沙と魅朱はジパングでは「オニ」と呼ばれる魔物で、極めて人に近い姿をしているが、決定的に異なる部分がある。
ソレは二人の額から生える雄々しい二本角、細かく言えば藍沙の肌は燃え盛る業火の如く紅く、魅朱の肌は晴れ渡る青天の如く蒼い。
藍沙の種族は「アカオニ」、魅朱の種族は「アオオニ」だが、二人の名前は『名は体を表す』という言葉を真っ向から否定する名前である。
鬼という言葉で連想するのは虎柄の衣服だが、二人が纏うのは黒一色の忍装束で、コレも固定概念を粉砕するには充分過ぎる。
尤も、普段の二人は連想通りの虎柄のサラシと腰巻きだが、今回は事情が違うのだ。
「全く、ワタシ達も大馬鹿なのですぅ。身一つで、こ〜んなに厳重に警備されてる屋敷に忍び込むのですからぁ」
「ソレには同意です……けど、貴方は『彼』を助けたいと思っていないのですか?」
「そんな訳無いのですぅ、ワタシだって『彼』を助けたいのですぅ!」
「なら、いいじゃないですか。生涯、一度だけでも大馬鹿になりましょう」
そう言いながら、魅朱は足場にしていた大木の天辺から飛び降りる。
「あっ! 待ちやがれなのですぅ! 抜け駆けは駄目なのですぅ!」
飛び降りた魅朱に追従するように、藍沙も大木の天辺から飛び降りた。
二人の目的は、二人が『彼』と呼んでいた人物の奪還。
藍沙と魅朱にとって、『彼』は大切な存在なのだ。
×××
「……はぁ」
拙者は、何度吐いたのかを忘れる程に溜息を吐いていた。
今の拙者の四肢には杭が打ち込まれており、磔にされた聖人のような体勢になっている。
正直、「痛い」という表現が生温く感じる程の激痛が、拙者の四肢を蝕む。
拙者がいるのは窓すら無い無機質な石造りの部屋、所謂牢屋だ。
窓は無く、廊下にも灯りが無い以上、牢屋は暗闇に包まれており、如何に豪胆な精神力の持ち主だろうと、何れは発狂してしまうだろうな。
「……はぁ」
四肢を封じられた拙者に出来るのは溜息を吐く事だけであり、眠りたくとも四肢を封じる杭が齎す激痛で眠気は地平線の彼方へ吹き飛ぶ。
拙者は溜息混じりに想う。
拙者が想うは、ただ一つ……藍沙と魅朱の事だけだ。
二人に会いたい、ただソレだけを支えに拙者は発狂を免れていた。
×××
さてさて、此処で昔噺といこうじゃないか。
あ? 真面目な我輩が気持ち悪い?
あのねぇ、流石に我輩も空気は読むよ? こんな状況で、いつものノリで喋ったら台無しじゃん。
ま、気を取り直して昔噺を、今回は牢屋で磔にされてる少年の経歴だ。
今、牢屋で磔にされてるのは冲田愁司(オキタ・シュウジ)君、妖怪と友好的なジパングじゃ珍しい反魔物派領・クルスの領主の息子さんだ。
何でクルスが反魔物派なのか、だって? 何故なら、クルスは大陸で幅を利かせてる教団に媚びてるからさ。
元々、クルスは小さな港街だったんだけど、愁司君の祖父さんが偶々ジパングを訪れてた教団と接触したのが現在のクルスの始まりだ。
愁司君の祖父さんが教団の拠点としてクルスの施設を提供、教団はクルスを拠点にジパング固有の魔物、つまりは妖怪の討伐に乗り出したんだよ。
全く、教団は見境無いね、『魔物=悪→妖怪=ジパング固有の魔物→妖怪=悪』ってな感じで脳内変換してまで、妖怪の討伐しようとするんだから。
んで、教団の遠征部隊が持ち込んだ大陸製の品をジパング各地に輸出して、小さな港街だったクルスは一躍大陸との窓口として発展したのさ。
んなもんだから、クルスの住人は教団の偏見思想にドップリ肩まで浸かっちゃっててさ、妖怪達はクルスに絶対近付かないんだよ。
因みに、オルガン君と更紗ちゃんを襲った騎士連中と、元教団専属暗殺者だったアルト君も此処から来たのさ。
そんな環境で育った愁司君だが、彼だけがクルスで唯一のジパング的思想の持ち主だ。
妖怪は良き隣人、手を取り合って助け合うべきなのに、自分の周りは妖怪は敵だと言う。
そんな環境が嫌で嫌で堪らなくなった愁司君、一〇歳の誕生日に家出し
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