前編

「……………………」
カツ、カツ…と石畳を鳴らし、買い物等で賑わう大通りを無言で歩く人間。
その靴音に他愛無い世間話に夢中になっていた魔物達はそそくさと道を開け、鬼ごっこに興じていた子供達も蜘蛛の子を散らすが如く逃げ出す。
一九〇センチという中々見る事の無い長身を包むは襟の立った純白のマント、品の良さを漂わせる白いスーツに白いスカーフ、更に真っ白な革靴。
目が痛くなる程に白で統一された服装だけ見れば貴族に見えるが、ある意味では怖い顔がソレを台無しにしている。
何故なら顔の上半分、口元だけが露出した無骨な鉄仮面を被っており、拷問用とも取れる鉄仮面の威圧感は半端ではない。

(まぁ、仕方あるまい)
歩いているだけで見事に避けられる様に、心中で諦めたような笑みを浮かべる。
一部を除き、この威圧感溢れる風貌で恐れぬモノはいない事を重々理解している。
威圧感溢れる仮面の人間の名は白城琴乃(シラギ・コトノ)……少女のような名前を持つが立派な男性であり、彼が歩く都市国家・アーカムでは知らぬ者はいない有名人だ。
尤も、良い意味ではなく悪い意味で、だが。



白城琴乃は敬愛する義父と七人の義兄弟達と共に科学万歳、魔法や魔物等のファンタジー要素とは無縁の世界に住んでいたが、ソレも一ヶ月と二週間前の話。
現在、琴乃は法が違えば理も違う、人間と魔物が共存する異世界で暮らしている。
而も、この世界の魔物は琴乃が想像していた魔物とは異なり、異形の部分はあれどもその姿は目を奪われる事間違い無しの美女なのだ。
更にこの世界の魔物は人間の男性を心から愛し、その男性との間に子供を作る事に無上の喜びを覚えると言う。
血肉を喰らって人間に害を為すというイメージを真っ向から否定する、この世界の魔物に随分と驚かされたが今はもう慣れた。
何故、そんな世界に琴乃は居るのかと言うと、ソレはこの世界の魔物を統べる魔王の娘、アステラ・フォン・ラブハルトに召喚されたからだ。

曰く、この世界の魔物は魔物を敵視する武装宗教組織・『教団』の新兵器に悩まされている。
その兵器とは全長一五メートル程の巨大ロボットとアンドロイド。
琴乃の住んでいた世界ではSF、ロボットアニメの産物がこの世界には存在するのだ。
この世界の技術が琴乃の住んでいた世界より発展しているなら納得出来るが、この世界の技術は魔法で進んでいる面はあっても琴乃の住んでいた世界で言えば中世と同レベル。
琴乃の住んでいた世界は勿論、現在彼の住む世界でも完全なオーバーテクノロジーである空想の産物に魔物達は悩まされている。
ソレに対抗する為に三人の義兄弟と共に琴乃はアステラに召喚され、魔物側の勇者として戦ってほしいと頼まれ、その頼みを彼等は引き受けた。
いや、引き受けるしかなかった……敬愛する義父の教え―戦う為の力が在る者は弱き者を護るべし―もあるが、当分元の世界に帰れないからだ。

アステラの頼みを引き受けた琴乃達は、魔物との共存を選んだ人間達や魔物の住む地域を攻撃する教団の迎撃に駆り出されている。
魔物側の勇者として戦う事になった琴乃がアーカムの住民に悪い意味で有名なのは、彼の戦闘スタイルが原因だ。
一言で言うなら『グロテスク』、琴乃の戦闘スタイルはとてもじゃないが勇者とは言えない代物で、幼い頃から見慣れている義兄弟達以外は感謝するよりも先に恐怖する。
威圧感溢れる鉄仮面、グロテスクな戦闘スタイル、この二つが護りたいと願う弱き者達を怖がらせてしまうのだ。
尤も、琴乃自身は己が評価を気にしていない……共に戦う義兄弟を含め、自分達は英雄や勇者等と呼ばれる人間ではない事を理解しているからだ。



「…………そうか。多忙な所、態々時間を割いてもらって済まない」
「力になれなくて済まんね、見かけたら教えてくれるように商売仲間に頼んでみるわ」
「あぁ、頼む……そうだ、労力に見合わぬとは思うが貴殿の懐に納めてくれ」
そんな琴乃の現在地はアーカムの商店街、そして行っているのは情報収集。
魔物の行商人―刑部狸という種族らしい―に一通り話を聞いた琴乃は、ズボンのポケットから出した三枚の銀貨を彼女に渡す。
「……毎度思うんだけど多いってば、コレ」
「人間に化け、反魔物派領に潜入するリスクを考えれば妥当な額だと思うが」
「まぁ、旦那がそう言うんだったら受け取るけど……」
琴乃の言葉に苦笑しながら、行商人は受け取った銀貨を懐に仕舞う……この銀貨、一枚で一般家庭なら一週間は何も困らず生活出来る代物で、ソレが三枚となると結構な額になる。
ソレだけの金額を払う事も惜しまない琴乃の頼みとは、一体何だろうか?

琴乃が行商人に頼んだのは行方知れずの義兄弟の行方調査だ。
琴乃は七男一女の義兄弟の四男、彼には三人の義兄と一人の義弟―尤も、彼を含めて全員『十七歳』な
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