後編

「くっ、増援はまだか!?」
アーカム郊外、その西側。
西側結界施設防衛部隊隊長であるデュラハンは焦りの混じった叫びを上げ、彼女の前では険しい表情を浮かべた数人の魔女が腕を前に突き出して障壁を維持し続ける。
魔女の後方、部隊長との間にはエルフやサキュバス等、弓や魔術を得意とする魔物が魔女達の維持する障壁越しに攻撃を繰り返す。
「アイアンマン、本当に厄介な連中だ!」
後方射撃部隊の攻撃にもめげず、魔女達の障壁を砕こうと躍起になるモノ達に、部隊長は歯噛みする。

「オラオラァ!」
「我等が使命の為に!」
自らを鼓舞するように叫びながら、障壁に張り付くモノ達は異形……蜘蛛のような複眼を持つモノ、丸太並に四肢が太いモノ、肘から先が縦に割れた腕を振り回すモノ等々。
張り付き、突破を試みようとするモノ達の身体には至る所に鋼鉄の輝きを放つ部位を持ち、攻撃を受けても怯む様子を全く見せない。
この異形のモノ達こそがオーバーテクノロジーの塊、アーカムを始めとした親魔物派領を悩ますアイアンマン。
民間人と見紛うばかりの軽装は鉄壁の防御力の証……彼等にとって己の肌と骨こそが鎧、幾等矢が刺さろうと火に炙られようと怯まない。

「このままでは……」
果敢に障壁に挑む鋼の異形達、部隊長は背後に聳える石柱に一瞬だけ目を向ける。
円を描くように張られた無数のテント―彼女達、防衛部隊の宿舎だ―、その中央には高さ約五メートル、直径三メートル程の円錐状の石柱。
根元に注連縄が巻かれ、頂点に近付くにつれて緩やかなカーブを描く石柱は傍から見れば巨大な爪にも見える。
この石柱がアーカムの守りの要である結界装置……東西南北に配置されたこの石柱の内、一本でも欠ければ結界は急速に弱まり、アーカムは丸裸にされてしまう。
故に、此処は何が何でも守り抜かなければならないのだ。

「隊長!」
守り抜く事を改めて決意した部隊長の背後から部下の声が耳に届く。
振り返ってみれば部下のリザードマンが石柱の根元を指差しており、その根元に描かれた魔法陣が淡い輝きを放っている。
「転移魔法陣(ポータル)には」
反応在り、その報告は最後まで紡がれなかった。
転移魔法陣から飛び出した人影に部下が吹き飛ばされ、それどころか一直線に駈ける人影の進路上にあったモノ全てが吹き飛ばされる。
青い稲妻の如き人影は障壁に張り付く鋼の異形の中でも一際大きい、雲をつかんばかりの巨躯を誇る男の懐に潜り込む。

「天に墜ちろ、『逆転・恐竜滅蹴撃(リバース・ダイナソーインパクト)』!!」
「へ―――あばああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」
何時の間に懐に潜り込まれたのか、ソレを知るよりも早く放たれた後ろ回し蹴りで男は天に向かって垂直に蹴り飛ばされる。
まるでロケットの如く打ち上げられる男に防衛部隊は勿論、他の鋼の異形達も呆然と空を見上げるが、何時まで経っても男は『落ちてこない』。
落ちてくるまで時間が掛かる程の高度にまで打ち上げられたのか、それとも……あまりの速度に『摩擦熱で燃え尽きたのか』。
「ご苦労だったな。この場は我に任せてもらおうか、お前達は負傷者を連れて撤退しろ」
「……………………え? あ、わ、分かった。総員、負傷者を連れて撤退するぞ!」
呆然と空を見上げる防衛部隊に、蹴り上げたままの体勢で青い人影が静かに告げる。
数秒後、自分に向けられた言葉だと漸く理解した部隊長はこれまでの戦闘で負傷した者と共に撤退を始める。

『……………………』
無論、撤退を見逃す気は教団に無いのだが、ゆっくりと仲間を蹴り上げた足を下ろす人影の威圧感に呑まれて動く事が出来ない。
野生の猛獣を前にしたような本能的恐怖に鋼の異形達は呑まれ、指先までが錆びたように動かない。
「あ、新手の、魔物か……」
「む、魔物だと? 何処に魔物が居るのだ?」
漸く声を出せた男の呟きに人影が、青い毛並みの人虎が不思議そうに周囲を見渡す。
周囲を見渡す青い人虎がその身に纏うはサラシと褌、それとシンプルなネックレスだけ。
女性らしい柔らかさを残しつつ引き締まった、健康的な色気を惜しみなく発散する身体は戦場でなければ誰もが目を奪われる―尤も、今は別の意味で目を奪われているが―だろう。

「我は人間だぞ? 人間を前に魔物とは貴様等の眼は硝子球か?」
「何を言う! 貴様の何処が人間だ! 何処からどう見ても魔物だろうが!」
「むぅ、言葉の通じない連中だ……ん?」
腕を組んで仁王立ちしながら自分は人間だと青い人虎は言うが、一人の異形の反論―無論、彼以外の者もウンウンと頷いている―で困ったように頬を掻く。
そして、頬を掻く感触で漸く青い人虎は、魔物化を果たした東は己が変化に気付く。

「コレは、我の手か? ふむ、色は違うが虎のような手だ……どうやら我はヒトを捨て、魔物になっ
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