誰かを愛する事に人間も魔物も関係無い
我が一族の男ならば守ってみせろ
そうだ
惚れた女は
キスして、愛して、抱きしめて
守ってみせろ
―魔術師は鋼鉄の如く愛を守る―
「ワイの名はオルガン! オルガン・氷室(ヒムロ)・アネット! 大導師(グランドマスター)になる男や!」
私の目前に立つ男は、そう名乗りましたわ。
男の前に立つのは、大陸の甲冑に身を包んだ複数の人間。
剣を持つ者、槍を持つ者、鉄鎚を持つ者……手にした得物は其々違いますけれど、誰もが私と私の前に立つ男に、あからさまな敵意をぶつけていますわ。
私の前に立つ男を言葉で表すなら、「だらしない人」といったところですわね。
背中の中程まで伸びた長髪、若草色のローブは何日も洗濯していないように汚れだらけ、男の身体からは何日もお風呂に入っていないようで異臭が漂ってますもの。
だらしなさ全開の男ですけど、男の特徴で目立つのが二つ。
一つは男の伸び過ぎた長髪……木漏れ日に照らされる男の長髪は、周辺では見る事の無い、収穫時の稲穂のように綺麗な黄金色。
一つは男のしている手袋……指先が出ている革手袋には手の甲の部分に其々六個、全部で一二個の小さいながらも綺麗な宝石があしらわれていますの。
そもそも、どうして私は物騒な人間達に襲われたのかしら?
一触即発の人間達を無視して、私は襲われた経緯を思い出す。
私の名は更紗(サラサ)、東方の島国・ジパングに住むモノですわ。
あら? 何故、「者」ではなく「モノ」なのかと聞きたいのですか?
当然ですわ、私はジョロウグモと呼ばれる妖怪ですもの。
私の下半身は巨大な蜘蛛になっていて、大陸の方ではアラクネと呼ばれる妖怪と同類だと言われてますわ。
私は裁縫や機織りが種族柄得意ですから、時折住処にしている森から出てきては、街で私の糸で作った着物を換金して日用品を買っていますの。
そう、今日も私は日用品の補充に街へ行って、その帰りに襲われたのですわ。
街に行った際、街が騒がしくて、何事かと住人に聞いたところ、一〇人程の大陸人が周辺に住む妖怪を討伐すると言っていましたわ。
だから、私は早く住処に戻った方が良いと、忠告もされましたわね。
ソレを聞いた私は着物の換金を諦め、戻ろうとしたところで件の大陸人達に見つかって、住処の森まで追われてしまったのですわ。
元々森を住処にするジョロウグモ、森の中での足の速さは一級品と自負していましたけど、件の大陸人達は数で勝負してきて、私は追い詰められてしまいましたの。
戦う事自体は可能ですけど、私達妖怪は人間を傷付ける事を本能的に嫌いますから、私は粘着性の高い糸を撒き散らして足止めする事しか出来ませんでしたわ。
私の背後は底の深い川、泳ぐ事の出来ない私は絶体絶命の危機とやらに陥りましたけど、私と大陸人達との間に割り込むように、颯爽とあの男が現れましたの。
『貴様、何者だ!』
突然間に割り込んできた人間が現れたのですから、何者なのかを聞くのは当然ですわね。
何者かを聞かれた男は、先程のように名乗ったのですわ。
×××
「……オルガンと名乗ったな。貴様、我々と同じ大陸人でありながら、何故魔物の討伐を邪魔するのだ! 魔物は全て滅する、ソレが我等が教団聖騎士の役目!」
大振りで刀身の分厚い剣を構えている隊長格らしい男が、私の前に立つ男に問い詰める。
そう言えば、聞いた事がありますわね……大陸の方には私達妖怪―確か、其方では私達は魔物と呼ばれているそうですわ―を一方的に嫌っている人間達がいる、と。
その人間達は何もしていない私達妖怪を悪者に仕立てあげ、頻繁に討伐を行っているとも聞きましたわ。
「じゃかぁしぃ! 確かに、ワイの髪の色は大陸人や。せやけど、ワイは生まれも育ちも性根もジパングのジパング人や!」
「何を言って……いや、貴様は混血か」
「おうおう、その通りやで。ワイの親父は大陸人、御袋はジパング人や」
へぇ、大陸人とジパング人の混血児なんて、珍しい人間ですわね。
背中しか見えてないのですから顔立ちは分かりませんけど、喋りは西方訛りですものね。
尤も、その西方訛りも胡散臭さが溢れていて、本当にジパング人の血が混じっているか、怪しいですわ。
「ふん! 大陸人とジパング人の混血児風情が、我等が役目を邪魔立てするか。良かろう、貴様もまとめて討伐してくれる! 行けぇ!」
隊長格の人間が剣を此方に向けると、背後にいた人間達が一斉に私達に襲い掛かる。
その数、九人……男は武器になりそうな物を持っていませんし、例え武術に優れていても一対九では勝ち目はありませんわね。
憐れで気の毒なお節介に乗じて、私は逃げさせてもらいますわ。
そう思って、私は四対の脚に力を籠めて跳ぼうとした、その時ですわ。
「はっ! そうは問屋が卸さへんでぇ!」
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