File12.5 Welcom back, favorite you of me Welcom back, hateful you of me

無、無、無、何も存在せぬ虚無。
黒、黒、黒、全てを塗り潰す黒。
何も感じられない漆黒の空間に佇む、一人の青年。
虚ろな瞳に無表情、リビングドールも真っ青な程に人形じみた青年だ。
青年は身動き一つ取らず、ボサボサの黒い長髪を靡かせながら呆然と佇んでおり、虚ろな瞳が映すのは何も存在しない虚無である。

青年の名は本洲太陽、何処にでも居る平凡な青年……だったが、ソレは    と出会う前の彼であり、    と出会ってからは悪を討つ為に戦いに身を投じた戦士である。
だが、今の太陽は抜け殻も同然で、何の感慨も去来せず、穴が開いたような空虚さが彼を支配している。
何も考えられず、何も考えたくない。
故に、こんなにがらんどうなのか、太陽にも理解出来ない。

(あれ……此処、は……?)
ふと、太陽はそんな事を思う。
何故、このような場所に居るのか理解出来ない。
(俺は、一体……?)
夢か、現か、幻か、そのどれもが絡み合った複雑怪奇な世界にいるように思える。
生死すら曖昧で、生の実感が無ければ死の確証も無い。

(ま、いっか……)
何もかもが酷く不安定な状況だが、今の太陽にとってソレは些末な問題でしかない。
なにせ、自分自身が不確かな状況に置かれているのだ、そんな状態で現状を把握する事は無意味である。
思考を放棄した太陽は遥か遠方、何も無い虚無を見つめながら物思いに耽る事にした。

セラエノ大図書館付属学園。
セラエノの中心に建つ学園は世界でも指折りの名門学園であり、一流を目指す学徒達には憧れの学び舎である。
設立は新世代初期と古いが今でも威風堂々たる校舎は少しも揺るがず、歳月を積み重ねる事で威厳と荘厳さを増していた。

本洲太陽は陰秘学……古くから世界を支えてきた魔術理論を専攻していた学生で、同期生の中でもトップクラスの優等生だった。
優秀且つ有名な魔術師の母の教え、人生の半分を費やして読み続けた数多の魔術書。
その二つが太陽を教師陣も将来を期待する優等生にし、当時の成績は常にトップ3以内、得意の蒼属性魔術に関しては万年一位を彼は維持してきた。
尤も、当時の太陽は他者と接する時間が極めて少なかった故に不愛想で、若者らしい青春を捨てて研鑽に励むストイックな姿勢から同期生達に変人扱いされていたが。

このまま順調に行けば、明るい未来が待っていたであろう太陽。
その明るい未来を叩き潰したのが不死の虫使い、『蝗害』である。
本来なら最上級生、それも選ばれた極一部の学生のみ許された準禁忌資料室―禁忌資料室よりは低いが、それでも悪用されれば危険な資料が収められた区画―への入室許可。
入学から二年で許可が下りた事に舞い上がっていた太陽は、好奇心と探求心のまま蔵書を引っ張り出しては読み、読み終えれば別の蔵書を引っ張り出して、を繰り返していた。

今は亡き母と並ぶ、可能なら母を超えた魔術師になると意気込んでいた太陽。
授業を受けている時以上の集中力を発揮して書物を読み漁る太陽は、肉が腐敗したような不快な異臭を嗅ぎ取った。
その異臭に異常を感じ取った太陽は何事かと構え、
『あら、また此処なの? ど〜なってるのかしらん?』
身構える彼の前に首を傾げながら『蝗害』が現れたのだ。

『誰だよ、お前……』
『あら、あらあらあら? いい所にいたわねぇん……アタシ、上に用があるんだけど、何度階段上っても此処に戻ってきちゃうのよぉ。アンタ、上に上る方法知ってるかしら?』
異臭に顔を顰め、身構える太陽の前で痩躯を揺らしながら、『蝗害』は上に……禁忌資料室に上る方法を彼に尋ねてくる。
得体の知れない変態の問いに、太陽は
『上の行き方なんて知らねぇし、知ってても教えるかよ!』
触れた物を凍てつかせて切り裂く氷の結晶で返答した。

『畜生、何で、何で効かねぇんだよぉ!』
『効かないわよぉん♪ そんなヘッポコ魔術じゃ、アタシを殺せないわよぉ』
『刃雪』を放ちながら太陽は本棚の迷路を逃げ回り、逃げ回る彼を『蝗害』はゆっくりと追い詰めていく。
全力で逃げる太陽だが、ゆっくり嬲るように歩く『蝗害』との距離は全く開かず、寧ろ徐々に距離が詰められていく。
『蝗害』の問いに『刃雪』で答えた太陽……身体に幾つもの『刃雪』が突き刺さったにも関わらず、全く堪えた様子の無い『蝗害』に太陽は恐怖を感じた。
『刃雪』を幾度も、何枚放っても怯むどころか平然としている『蝗害』に、太陽は『刃雪』を放ちながら恥も外聞もかなぐり捨てて逃げ出した。

『畜生、畜生っ!』
『刃雪』を放ちつつ全力で逃げる太陽、全力で逃げる彼を付かず離れず追い詰める『蝗害』。
本棚の間を右へ、左へ、上へ、下へ、ソレ以外の方向へと逃げ続ける。
然し、どれだけ逃げ続けても出口が見えない……走った分だけ道が延びていくかのような、理不尽な現象が目前で展
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