「ちっ……」
月明かりだけが照らす、何も無い草原を駈ける影三つ。
影の一つは『通り魔』、セラエノの周囲に広がる草原を『通り魔』は何かを抱えて疾走する。
『通り魔』は時折背後を振り返るが、その仕草はまるで追われる者の仕草だ。
実際、『通り魔』は追われている、残る影二つに追われている。
「人間も魔物も構わずブッ殺すテメェが、何でソイツを逃がそうとしてんだよ、ボケェ!!」
『通り魔』追う影の一つは少年……外観は一〇代半ばだろうか、大人への成長が始まったばかりのように小柄な少年だが、その少年は少年とは言えない異様な風貌をしている。
胸と背中に溶岩の如く赤い染料で噴火する火山が描かれた、漆黒のレザースーツ。
何とも少年らしさが感じられない服だが、何より異様なのは少年の頭部だ。
『燃えている』、松明の如く少年の頭部が燃えている。
よく見れば、服と身体の隙間から白い煙が噴いており、燃え盛る頭部もあって動く火山だ。
「何ヲ考えてル、『通り魔』!」
たどたどしい口調で喋る、最後の一つは巨漢……低めに見積もっても、二メートルを軽く超えるであろう巨漢の前では、一八〇センチ前後の太陽ですら子供に見えるだろう。
象を思わせる巨躯を異常発達した筋肉で覆った巨漢は、右半分は茶色、左半分は緑という奇妙な色彩のスーツの上にガウンを羽織っている。
ソレだけでも異様だが、顔に髑髏を模した覆面を被っており、その覆面が巨漢の異様さを際立たせている。
「何を考えているのか、か……俺が考える事は一つ、本洲太陽を殺す事だけだ!」
巨漢の言葉に反応した『通り魔』は背後を振り返らず、術式を詠唱する事も無く、自慢の魔術を発現させる。
疾走する『通り魔』の周囲に現れるは不可視の刃、その数は三〇枚程。
斬られた事すら遅れて気付く程の速度で振るわれる不可視の刃、この刃こそ『通り魔』と呼ばれる所以である。
「狩ゥゥ――――、殺ァァ――――!!」
裂帛の気合と共に放たれる三〇枚の不可視の刃、不可視の刃は一斉に『通り魔』の背後に居る二人に襲い掛かる!
「うおっと!? チィッ! コレがあるから、『通り魔』を追い掛けんのは嫌なんだよ!」
「文句ヲ言うナ、『噴火(ヴォルケイノ)』!」
放たれた不可視の刃を、二人は今まで培ってきた勘で避ける……『噴火』と呼ばれた少年は走りながら忌々しそうに悪態を吐き、巨漢は『噴火』を宥める。
「けどよぉ、『地震(アースクエイク)』、結局は『アイツ』も殺すんだろ? ぶっちゃけ、いらなくね?」
「あの『魔物』ヲ殺すのハ、オレ達ノ使命を果たしてからダ。ブツブツ文句ヲ言う前ニ、早く『通り魔』を動けなくするゾ」
「わぁった、わぁったよ! ったく! 脳筋の癖に妙に真面目だよなぁ、此奴」
『地震』と呼んだ巨漢の言葉に、『噴火』は心底面倒そうな表情を浮かべつつ足を止める。
「ほぉら、プレゼントだよぉっと!」
『通り魔』を追う足を止めた『噴火』が足元の地面に小さな拳を思い切り叩き付けると、拳を叩き付けた場所から轟音と共に勢いよく火柱が上がる。
ソレは溶岩の柱、噴出した溶岩は滴る灼熱の雫で草を焼き、高温で大気を歪ませる。
『噴火』はすかさず跳躍、溶岩の柱の天辺で我武者羅に拳を振るう。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァ――――!!」
「ちぃっ!」
轟音で背後を振り返った『通り魔』は、背後から無数に迫るモノに舌打ちする。
背後から迫るは火山弾……『噴火』が溶岩の柱の天辺で拳を振るっていたのは、火山弾を『殴り飛ばして』放つ為だ。
「流石は『噴火』、その名は伊達じゃないか!」
降り注ぐ無数の火山弾に『通り魔』はジグザグに跳躍して、迫る火山弾を避け続けるが、高速で飛来する火山弾を避け続けるのは『通り魔』でも困難だ。
地面にぶつかれば高温の礫が榴弾の如く飛び散り、近くを掠めればそれだけで肌が焼ける。
不可視の刃で迎撃しようにも、今の『通り魔』には複数同時精密遠隔斬撃を行う集中力が欠けている。
何故なら、
「此奴は、絶対に、逃がすんだ!」
飛び散る火山弾の破片から抱えている『魔物』を守る事に全力を尽くしているからだ。
「狩ッ!」
複数同時精密遠隔斬撃は、多大な集中力を必要とする……今の『通り魔』は、抱えている魔物に当たりそうな破片を切り払う事に集中している。
現在、『通り魔』が複数同時精密遠隔斬撃を行える最大枚数は四〇枚、不可視の刃の枚数が多ければ多い程、枚数に比例して集中力が必要となる。
また、枚数が多ければ多い程、『通り魔』は不可視の刃の操作に集中力を割かれ、必然的に動きが鈍くなる。
抱えている魔物を全方位から迫る破片から守る為に一五枚、絶え間無く降り注ぐ火山弾を避けつつ動かせるのはコレが限界だ。
「ぐっ!?」
無論、一点に守りを集中していれば、他の部分の守りは薄くな
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