File.08 The Return of “H”

「この星を訪れるのも、久し振りね……」
蒼き空の向こう、果て無き漆黒の虚無……星々の明かりだけが儚く照らす、漆黒の大海を翔ける人影が一つ。
その人影は魔物、リザードマンと呼ばれる蜥蜴の特徴を備える獣人型の魔物だ。
リザードマンは黄色い襤褸布をマントのように羽織り、手には剣ではなく杖を持っている。

漆黒の大海を翔けるリザードマンは、他のリザードマンとは異なる特徴を備えていた。
ソレは身体を覆う鱗……リザードマンの鱗は濃淡の差はあれど大抵緑色だが、漆黒の大海を翔けるリザードマンの鱗は黄金を思わせる黄色。
然し、黄金を思わせる鱗に輝きは無い。
輝ける黄金でありながら、微かな輝きすらも放たぬ黄色い鱗は宛ら金色の闇とも言える。
金色の闇を纏うリザードマンは視界に映る星を見て、感慨深く呟く。

「地球を訪れるのも、彼是『四〇〇年振り』かしら……私が地球を離れている間に、民草はどれだけ進化したのか、楽しみだわ」
穏やかな笑みを浮かべ、金色のリザードマンは漆黒の大海を翔ける速度を上げる。
彼女の名はヒャーデス・カルコス・ハストル・セラエノス・イアン・アルデラン。
尤も、その名を知る者は極僅かであり、人々は彼女をこう呼んでいる。
『ハストゥール』、と。

×××

「ふわぁ――――はっはっはっはっはっはっ!! 我輩のドリルで、貴様を掘って掘って掘り進んでやるのであぁぁ――――る!!」
「掘るって連呼すんな! 男に言われると、嫌な響きだ!」
夏季合宿から三日後、己達は旧市街地でドクター・カーウィンと戦ってた。
相変わらずドラム缶風呂じみたバルバロイを駆るドクター・カーウィン、その台詞に己は思わず左手で尻を抑える。
無論、今の己の右手はガトリング砲、距離を取りつつドラム缶に牽制射撃を浴びせてる。
全く、休む間もなく此奴の相手をすんのは疲れるぜ。
「タイヨウ、ナンでオトコにホるってレンコされるのがイヤなんだ?」
「シャッドは知らなくていい!」
純粋無垢なシャッドは知らなくていいから、ソレは!

「このぉっ!」
己は左腕を変化させたリボルビンググレネードを、周囲に居る鬼人型に向けて放つ。
放たれた榴弾は着弾と同時に爆発、爆炎ではなく低温の冷気が鬼人型を包み込み、冷気に包まれた鬼人型は瞬く間に凍りつき、硝子細工のように砕け散る。
「このっ、このっ!!」
「ぬぬぬぬぬ……この我輩のハンドル捌き、舐めてもらっては困ったちゃんなのである!」
一方、シャッドはドラム缶に取り付き、激しい肉弾戦を展開中……鋼鉄の拳とシャッドの拳が激しくぶつかり、一撃一撃が必倒確実の連打を二人は捌き合う。
ちっ、ドクター・カーウィンめ、操縦技術を上げやがったな……以前はシャッドの連打を捌けなかったくせに、今は何とかシャッドの連打を捌けてる。

今回、ドクター・カーウィンは戦い方を変えてきた。
以前はその自信過剰な性格がモロに出てて、何時も一人で己達に挑んでは、その度に己達にブッ飛ばされてきた。
一人で挑む事に無理を感じたのか、今回のドクター・カーウィンは鬼人型を何機か連れて己達に挑んできた。
んで、己は鬼人型を、シャッドはドクター・カーウィンの相手を選び、今に至る訳だ。

「ぐぅっ!?」
鬼人型の相手をしていると、突然己の右手が疼き始める……見れば、クトゥルフの紋章が深海を思わせる深く蒼い輝きを放ってる。
な、何だ!? 何で、いきなり紋章が輝くんだ!?
「のわぁぁ――――――――――――――!?」
突然輝き出した紋章に気を取られてた己の耳に、ドクター・カーウィンの悲鳴が届く。
悲鳴を聞いた己がドクター・カーウィンに視線を向けると、其処には巨大竜巻に包まれ、空高く持ち上げられてるドクター・カーウィンとドラム缶が居た。
竜巻に包まれてるのは、ドクター・カーウィンだけじゃなかった……残ってた鬼人型も、突然吹き始めた巨大竜巻に包まれ、空高く持ち上げられてく。

「私の領地で狼藉を働くなんて、命知らずね」
不意に聞こえた、冷たい声……その声と同時に突然吹き始めた幾つもの巨大竜巻は意思を持つようにうねり、持ち上げたドラム缶達を地面に叩き付ける!
叩き付けられたドラム缶達は地面ごと竜巻に引き千切られ、細かな鉄屑へと姿を変える。
そして、ドラム缶達を粉々に引き千切った巨大竜巻は、現れた時と同様に突然掻き消える。
旧市街地に残されたのは、突然の巨大竜巻に呆然とする己達と
「さて、次は貴方達ね」
空中に浮かぶ黄色い鱗を持ったリザードマン。
って、ちょっと待て……『次は貴方達』? 若しかして、ソレは。

「吹き飛びなさい」
「どわぁぁ――――――!?」
「うひゃぁぁ―――――!?」
嫌な予感を抱いた瞬間、足元から己達を包むように巨大竜巻が現れ、己達は一気に空高く持ち上げられる。
やっぱり己達ですかぁぁ―
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