File.07 The Call of "C"‐2

「え、えぇと……アンタ、誰?」
いきなり己達の名を呼び、『待ちかねた』と言った緑色のスキュラに己は何者なのかを問う。
「おぉ、自己紹介をしておらんかったな。我(ワレ)とした事が、客人に無礼を働いてしまったか。我が名はフグルイ・ムグルーナフ・クトールフ・ルーリエ・ウガフナグラ・フタグナ」
名前長っ、あまりの長さに舌噛みそう。
「まぁ、地上の民草には『クトゥルフ』と言った方が通じるかのぉ?」
「…………………………………………はい?」
え? このスキュラ、今何と言いました?
くとぅるふ? クトゥルフ? 『クトゥルフ』って、ええぇぇ――――っ!?
「ま、ままま、まさか!?」
突然の爆弾発言に己は驚愕で目を見開き、シャッドは首を傾げ、『クトゥルフ』と名乗ったスキュラは己の反応に満足そうな笑みを浮かべる。
「然り。我こそが深淵の支配者、クトゥルフぞ」
何てこった、粘液滴る洞窟の奥で『現神』の一柱と遭遇するとは。

クトゥルフ、海棲の魔物達を統べるポセイドンと並ぶ海の現神。
ポセイドンが『魔物化した神格』なら、クトゥルフは『神格化した魔物』。
元々、クトゥルフは一介のスキュラだったが、過酷な環境である深海で永き時を過ごした結果、神と同等の力を獲得し、当時の親魔物派の神格達に神の一柱として迎えられた。
元々魔物だったクトゥルフは当然親魔物派、その眷属も神格として親魔物派の漁師や海棲の魔物達から崇拝・信仰されてたんだ。
嘗て世界を恐怖に陥れた生体魔導兵器・『魔物娘捕食者』の一体であるGE‐05及び06、そのベースとなった魔物もクトゥルフの眷属だとか。

旧世代の神話に因れば、クトゥルフの力はポセイドンを凌駕し、当時の魔王も超える力を持ってたらしく、独自の生態系を作る程に過酷な深海育ちは伊達じゃないって事だ。
だが、その実力に反して知名度は低く、クトゥルフの信者は現代ではスキュラと彼女達の旦那のみ、同じ神格扱いされる稲荷や龍、エキドナと比べても圧倒的に少ない。
クトゥルフの存在を記した書物は、現代では『ルルイエ異本』と『水神クタアト』のみ。
この二冊の原本はセラエノ大図書館で厳重に保管されてる上に持ち出しも閲覧も禁止で、写本も数が少ない上に持ち出しと閲覧には許可が要る。
故に、その存在を知る者は極僅か、己も母さんが写本を借りてこなかったら、シャッドと一緒に首を傾げてたに違いない。
目立たない影の実力者、ソレがクトゥルフだ。

「そ、そ、それでっ!? な、なな、何で神様が、己達のようなミジンコ並にチッポケで矮小で、知らずにプチッと踏んづけても全然良心が痛まない存在を待ちかねたってのは、ど、どどど、どういう事なのでしょうか!?」
「謙遜なのか、卑屈なのか、皮肉なのか、何とも判断に迷う言い方であるなぁ……」
アンリと初めて会った時以上の衝撃に俺は激しく動揺し、動揺する己の言葉にクトゥルフは呆れた溜息を吐くが、呆れた溜息を吐かれてもコッチが困る。
目立たないとは言え、何故に神様が己達のような矮小な存在を待ってたんだ?

「お主等を呼んだのは、我が別荘を探る不届き者を追い払ってほしいのだ」
己の疑問にクトゥルフは真面目な表情を浮かべ、己達を呼んだ理由を話し始める。
曰く、三週間程前からインスマウス沖にある岩礁……『悪魔の岩礁』から繋がる海底洞窟、クトゥルフの別荘たるイハ=ントレイを探る者が居る。
三週間程前っていうと、『通り魔』と激闘を繰り広げた後辺りか。
その目的は分からないが、その不届き者は此処の主であるクトゥルフの前で堂々と此処を探ってるらしく、ソレをクトゥルフが黙って見過ごす訳も無い。

自分で懲らしめればいいんじゃね? と己は言ったが、何でも四〇〇年程前に宿敵である現神・ハストゥールとの戦いで力の殆どを使い果たしちまったそうだ。
んで、今の力は全盛期の二割程、二割程の力じゃ不届き者を懲らしめるには心許無い。
故に、不届き者を懲らしめるに充分な力を持つ者だけが反応する特殊な『念話』を発信し、その『念話』を受信したのが己達という訳だ。
因みに己達の名前を知ってたのは、この『念話』を己達が受信した際に知ったそうだ。

「お主達の働き、期待しておるぞ」
「は、はぁ……」
クトゥルフの言葉に俺は曖昧な返事を返す……己達に期待するのは結構だが、神様であるクトゥルフなら二割程でも充分な気がするんだが。
『神に頼まれる』というのは前代未聞の経験だが、頼まれた以上はシッカリやらないと。
コレもアレスタの面をブン殴る為の研鑽だと自身を納得させた己は、クトゥルフに了解の意思を伝えようとした瞬間だった。
「漸く、漸くだ。漸く見つけたよ、深淵の主」
パンパンと乾いた拍手の音と共に、聞き慣れない声がクトゥルフの玉座に響いた。

×××

「誰だ、テメェは……」
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