「久し振りだな、『通り魔(ファントムキラー)』……彼是、半年振りになるかな?」
「あぁん?」
セラエノ近郊に潜む百足型内部……その尾の末端、バルバロイの格納庫の先にある区画をアレスタは訪れていた。
その区画は巨大な牢屋だが、その牢屋も『たった一人』だけを閉じ込めるだけに存在し、広大な牢屋に閉じ込められているのは太陽と同年代の青年である。
青年纏うは襟と裾がボロボロの灰色のロングコート、下には灰色の革製のつなぎ。
ライダースーツにも見える革製のつなぎには、所々にベルトやジッパーが巻き付けられ、その内側はワイヤーで編み上げられている事もあり、此処までいくと最早拘束衣だ。
腰には金属鋲が大量に付いた革製ベルトを巻いており、エレキギターを持たせてマイクの前に立たせれば、喉を嗄らす勢いでロックを歌い出しそうな風体である。
見れば四肢は壁と繋がった赤子の腕程はありそうな極太の鎖で縛られており、視界を覆う仮面を被らされている。
四肢と視界封じられた、この青年こそが『災害の体現者達』が一人、『通り魔』である。
「その声は、アレスタか……はっ、態々此処に来るなんて、アンタも暇人だな」
「暇を持て余している事は、余も認めよう。だが、貴公も暇人であろう?」
声の主がアレスタと知った『通り魔』は顔を俯かせたまま、敬意の欠片も無い口調で彼に話し掛けるが、当の本人は全く気にしていないようである。
「確かにそうだな……それにしても、半年振りだと? 前に『抜け出して』から、随分と経ってるじゃないか」
ニヤリと笑う『通り魔』に、アレスタは肩を竦める……そう、この牢屋は『通り魔』には意味を為さず、その気になれば何時でも牢屋を抜け出せるからだ。
実際、『通り魔』は過去に何度も牢屋から抜け出しているのだ。
「それで? 暇を持て余すアンタが、同じ暇人の俺に何の用だ?」
アレスタが無意味な牢屋に訪れた理由を問う『通り魔』……だが、『通り魔』は何故容易く抜け出せる牢屋で大人しくしているのだろうか?
そもそも、『通り魔』が牢屋に閉じ込められているのは、彼の危険性からだ。
『通り魔』は『ある目的』を果たす為に『自ら』正導真理会に入団し、正導真理会は自ら入団した者には以前語った狂気じみた洗脳を施さないのである。
その母体となった『人類の護符』でも自ら配下に加わった者には魔人・オリバーは洗脳を施さなかった事もあり、彼等は律儀に始祖の真似をしているがソレが逆に仇となった。
『通り魔』は入団当初から自分の目的の為に好き勝手に行動し、彼の行動は正導真理会の使命に背く行為だった。
『通り魔』が行ったのは、人魔問わずの虐殺……まるで『八つ当たり』の如く彼は虐殺を行い、その行為は正導真理会の使命を完全に無視していた。
その為、『通り魔』属するセラエノ攻略隊は世界に残す人間をも滅ぼしかねない彼を牢屋に閉じ込めたのだ。
尤も、その牢屋も先述した通り、『通り魔』には無意味なのだが。
その無意味な牢屋で『通り魔』が大人しく拘束されているのは力を溜める為であり、彼の力の根源は『憎悪』。
魂焦がす程に熱い灼熱の憎悪が頂点に達した時、『通り魔』は牢屋を抜け出して虐殺を行い、気が済めば再び牢屋に自ら閉じ込められる。
『通り魔』を閉じ込める牢屋は実質的に彼の個室であり、四肢縛る鎖も、視界覆う仮面も、彼にとっては力の根源たる憎悪を高める装飾品に過ぎない。
四肢縛る鎖は憎悪を熟成させ、視界覆う仮面は内で燃え盛る憎悪の昂りを感じさせる。
轟々と燃え盛る憎悪が『通り魔』の力の根源であり、憎悪を糧とする彼の魔術は殺傷能力という面で見れば、世界最高の魔術師・『偉大なる八人』をも凌駕するのだ。
「貴公の憎悪、ぶつける時が来た……と、でも言っておこうか」
「っ!?」
アレスタの答えになっていない答えに、『通り魔』は仮面に覆われた顔をアレスタに向ける。
顔を向けると同時に湧き上がる魔力……『通り魔』放つ魔力を魔術師か魔物が感じ取れば、一秒も掛からずに失禁して卒倒する事は先ず間違い無い。
それ程に放たれた魔力は濃く、憎悪に塗れていた。
「貴公の『世界を滅ぼしても構わぬ、極上の憎悪』……その憎悪をぶつけられる、哀れな子羊を貴公に教えてやろうと思ってな」
憎悪と共に放たれた超高密度魔力を、アレスタは微笑を浮かべた涼しい顔で受け流しつつ、『通り魔』の視界を覆う仮面を外す。
顔の上半分を覆っていた仮面を外されて晒される、『通り魔』の素顔。
荒々しく切り揃えられた黒のメッシュが掛かった白髪、整った顔立ちは美青年と言っても過言ではない。
正導真理会の者でなければ独身の魔物が挙ってアプローチを掛けるだろうが、その端整な顔立ちを『通り魔』の瞳が台無しにしている。
右はルビーを思わせる紅、左はサファイアの如き蒼、端整な顔立ちを引き立て
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