File.00 world history

「…………腹、減ったなぁ」
腹減った、腹減ったと呟きながら、青年は路地裏をフラフラと彷徨っていた。
ボサボサの黒髪は目を隠してしまう程に長く伸び、死んだ魚の如き虚ろな目が前髪の隙間から覗いているが、髪に隠れて判断し難いが顔立ちは女性のように柔らかい。
男性にしては細く華奢な体格だが目算でも一八〇センチ前後と意外と背が高く、顔立ちもあって黙っていれば長身の女性に見える。
上は白いYシャツに白黒の縦縞ストライプのTシャツだが、両方共汚れや垢に塗れており、裾や袖がボロボロだ。
下は紺色のジーンズだが所々が裂けており、左足の方は踝辺りまであるが、右足の方は膝から下が失われている。
「…………め、飯ぃ」
如何にも浮浪者といった風体の青年……名は本洲太陽(モトズ・タイヨウ)、年齢は一八歳。
嘗て、セラエノ大図書館付属学園に在学していた学生である。

太陽が彷徨っているのは学園都市・セラエノ、都市全体が学園という珍しい都市だ。
総人口は二五〇〇〇人程、その八割がセラエノの中枢にして校舎であるセラエノ大図書館付属学園の生徒及び教職員である。
残る二割も生徒及び教職員が寝泊まりする寮、日用品・教科書等を販売する購買といった関連施設を管理・運営を任された学園関係者だ。
セラエノが学園都市になった経緯は以下の通りだ。
セラエノ大図書館で学問を学ぶ者達が集まり、集まった利用者達は大図書館を囲むように宿泊施設を建造し、そのまま宿泊施設に定住した。
宿泊施設が満員になったら宿泊施設を増設、増設された宿泊施設に新たな利用者が定住し、ソレを繰り返した結果、セラエノ大図書館を中心とした都市・セラエノが生まれた。
その後、緩やかに人口が増加していったセラエノは、セラエノ大図書館館長兼領主であるアルバート・N・ウィルマースの試みで学園都市として生まれ変わる事になった。

アルバートはセラエノ大図書館の一部を改装して『セラエノ大図書館付属学園』の校舎を造り、生徒及び教職員となる学者を募集。
元々、知的好奇心旺盛な者達が集まって生まれた都市だけあり、生徒及び教職員は直ぐに集まり、『セラエノ大図書館付属学園』が開校された。
開校当初、生徒は地元民だけだったが次第に他の都市からも生徒が集まり、生徒の増加に伴い教職員を増やした。
生徒及び教職員の増加に伴い校舎を増築、校舎の増築が新たな生徒と教職員を呼び、生徒及び教職員の利用する施設が都市に立ち並ぶようになった。
そして、セラエノは世界最大の学園に生まれ変わったのだ。

そもそも、セラエノ大図書館とは何なのか?
セラエノ大図書館とは世界一の蔵書量を誇る超巨大図書館であり、現代では貴重な旧世代の書物もほぼ完全な状態で保管されている知識の宝庫である。
旧世代の頃から著名な作家や熟練の魔術師が著書を寄贈し、現代でも著書を寄贈する者がいる為、蔵書量は着々と増加し、蔵書量の増加に伴い増築も行われている。
だが、セラエノ大図書館は未だに謎が残る施設でもある。
どのようにして蔵書を集め、何時頃から図書館として利用され始めたのか。
そもそも、誰が、何の目的で、何時頃建造されたかすら分からず、一説では旧神(エルド)が自らの知識を記した書物を保管する為に建造したのではないかと言われているのだ。

「はぁ……学生じゃない奴には、とことん冷たいよなぁ」
太陽は『とある事情』に因り、セラエノ大図書館付属学園を中退した。
セラエノは学生・教職員・施設管理者以外の人間には冷たく、学園を中退した太陽は寮を追い出された。
親元に帰りたくとも両親は彼が一五歳の時に死去した為、太陽は天涯孤独である。
故に太陽は浮浪者となり、毎日が命懸けの生活を送っているのだ。

「ひもじぃ、ひもじぃ、誰か俺に飯をプリーズ……」
呪詛の如くブツブツと空腹を訴える太陽だが、彼の身体を良く見ると人間とは異なる物が存在していた。
尖った耳……サキュバスのように尖った耳が伸びた髪から覗いているが、太陽は正真正銘『人間の男性』である。
本洲太陽は、人間とサキュバスの夫婦から生まれた子供なのだ。

×××

少し、この世界の事を語ろうか。
この世界には人間と『魔物』と呼ばれる存在が住んでいた。
魔物は凶暴な気質を持つ人間を喰らう存在であり、獣のようなモノから筆舌し難い異形のモノ等、様々な姿を持っていた。
人間と魔物は種族の存亡と世界の覇権を賭け、長年争い続けてきた。

血で血を洗う両者の関係は、魔物を統べる魔王の代替わりに因って劇的に変化した。
強大な力を持ったサキュバスが魔王に就任した際、魔物は魔王に就任したサキュバスの力に因って姿と精神が大きく変化したのだ。
その姿は人間の女性と近しい、美しく魅力的な姿へと変化した。
その精神は人間の男性を本能的に求め、愛するようになった。
魔王の代替わ
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