〜大陸北西部・ネフレン=カの墓所〜
「各員、迎撃用意!」
死者と屍人型魔物の楽園・ネフレン=カの墓所……昼間だというのに暗く淀んだ空、無数に乱立する墓標は、御世辞にも楽園とは言い難い光景。
楽園とは言い難い殺伐な楽園は、現在異形の群の侵攻を必死に食い止めていた。
「一番隊、二番隊は弓を構えて! 三番隊、四番隊は術式詠唱を用意! 私の合図と共に斉射しなさい!」
陣頭指揮を執る魔物の声に答えるように、屍人型魔物達は弓を構え、魔法陣を浮かべる手を突き出す。
指揮を執る魔物はヴァンパイア……高い魔力と可憐な外観に見合わぬ剛力を持ち、『貴族』と自称するに相応しい実力を誇る稀少な魔物である。
ヴァンパイアの視線の先には異形の群……言葉で表現するなら、巨大な蟲。
鋭い牙が剥き出しで人間程の大きさなら容易く丸飲み出来そうな大口、臓器を思わせるヌルリとした光沢を放つ節くれだった巨躯、申し訳程度の小さ過ぎる腕。
巨蟲の群は津波の如く押し寄せ、目前に立つ魔物達を飲み込まんと大口を開ける。
「今よっ! 総員、斉射!」
最前線に立つヴァンパイアの声と共に矢の雨が、火球が、氷柱が、雷撃が、竜巻が、石塊が、巨蟲の群目掛けて放たれる!
突き刺さり、燃やされ、凍りつき、引き裂かれ、押し潰される巨蟲の群。
だが、巨蟲の群は同胞の屍を踏み越え……いや、『喰らって』突き進み、屍を喰らいながら突き進む巨蟲の群に、ヴァンパイアは嫌悪感を露にする。
「全く、同胞の屍を喰らうなんて下品ね……総員、第三防衛線まで撤退よ! 『生きなさい』! ネフレン=カの墓守・ホーヴァスの名を、貴方達の二度目の死で汚す訳にはいかないわ!」
既に死んでいる屍人型魔物に『生きろ』というのはおかしい表現だが、それでもヴァンパイアは彼女達の二度目の生を守る為に撤退を宣言する。
(現在、二度目の死を迎えたのは零人……私の指揮が上手いのか、それとも下品な蟲達に私の指揮の裏を掻く知能が無いのか、どちらなのかしら?)
ヴァンパイアは撤退を始める屍人型魔物達の殿として残ると、何も無い空間からヴァイオリンが現れ、彼女は現れたヴァイオリンを奏で始める。
ヴァンパイアがヴァイオリンを奏でると、無数の蝙蝠達が……いや、正確に言えば、氷で作られた蝙蝠の彫像達が現れる。
氷の蝙蝠達は複雑な軌道を描きながら高速で飛翔し、巨蟲に接触すると同時に、その身から無数の氷柱を生やす。
氷柱に貫かれた巨蟲は数瞬だけ進行を留まるが、その数瞬を狙って氷の蝙蝠達が集まり、冷気と氷柱の抱擁を受けた巨蟲は氷の彫像と化した。
されど、如何に実力者たるヴァンパイアであっても、全長四メートル程の巨蟲の群を単身で相手にするのは厳しいモノがある。
(流石に一人は厳しいわね……ネフレン=カの墓守である私が、二度目の死を迎えた最初の一人目なんて、冗談でも笑えないわ)
二五〇年にも亘って歴代の墓守が守り続けてきた名誉を、ネフレン=カの墓所で二度目の生を謳歌する屍人型魔物を守る為にも、ヴァンパイアは懸命に殿を務める。
(魔力欠乏まで、大体二〇分といった所かしら……本当に、この私が二度目の死を迎えた最初の者になるのも時間の問題ね)
然し、巨蟲の群は氷の彫像と化した同胞を喰らいつつ進撃し、のべつ幕無しに一切合財を喰らう巨蟲の群にヴァンパイアが諦めた、その時だった。
『諦めんな』
(え……?)
脳髄に直接響くような声に、ヴァンパイアは思わず空を見上げた。
ヴァンパイアの視線の先、巨蟲の群の上に見える豆粒に等しい何かが落ちてくる。
『そんで、踏ん張れ』
「踏ん張れって、何に……って、きゃあぁぁぁぁっ!?」
踏ん張れと響く声に疑問をぶつける暇も無く、ヴァンパイアと巨蟲の群を巻き込むように幾つもの巨大な竜巻が巻き起こる。
巨蟲の群を巻き込んだ竜巻は、巨蟲を上空高くへと持ち上げ、意思を持っているかの如くうねりながら竜巻は巨蟲を地面に叩きつける。
地面に叩きつけられた巨蟲は、そのまま竜巻に引き裂かれ、細切れと化した肉片と瓦礫が淀んだ空へと舞い上がる。
「踏ん張れって、こういう事っ!?」
一方、竜巻に巻き込まれたヴァンパイアは風に舞う木の葉の如く暴風に翻弄され、姿勢を保つだけで精一杯だった。
暴風に翻弄され、上空高くまで舞い上がったヴァンパイアの腕に黄色い帯が巻き付き、腕に巻き付いた黄色い帯は巻き付くと同時に彼女を引っ張った。
引っ張られた先には黒眼鏡を掛けた青年がおり、黒眼鏡の青年は彼女を抱える。
「手荒くて、悪かったな」
キョトンとした表情を浮かべるヴァンパイアに、黒眼鏡の青年は申し訳なさそうに苦笑し、青年は眼下に視線を向ける。
視線を下に向けた黒眼鏡の青年に釣られてヴァンパイアも視線を向けると、竜巻の洗礼を生き残った一匹の巨蟲が、上空高くに居る二人に向かって身体を
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