時に、東歴1995年。
昭和年号で言うと112年。
11月6日の、冬がすぐそこまで迫った寒い日。
かつては森羅万象の国とさえ言われたジパングも、今や文明社会に染まりきった先進国。
無論、古くからある神社や寺等を大事にする精神こそ捨てていないが、それら神仏は空想の産物でしかないという認知。
そんなジパングにある「国立黒金大学(こくりつくろがねだいがく)」。
生物学の研究が盛んなこの大学の一室に、一人の男がいた。
「うーん………」
資料室にある化石の前でにらめっこをする、一人の男。
成人前特有の子供らしさを残した顔立ちに、飾り気のない黒髪とメガネ。
パーカーにズボンという服装が彼の地味さというか、ザ・陰キャラといった感じを際立たせている。
「やっぱり…………違うよなぁ」
彼の視線の先にあるのは一つの化石。
見た限りでは人間、または類人猿のようだが奇妙な点がある。
それは、頭に生えた角と背中から生えたコウモリのような翼。
何の冗談だ、と誰もが言うだろう。こんな、悪魔かサキュバスのような生物、進化論上ではあり得ない。
しかし、目の前にあるそれは人魚のミイラのようなミキシング・ビルドではなく、列記とした北欧のレスカティエ平原で見つかった、古生物の化石なのだ。
その時の写真も残っている。
「一体何なんだ、これ……」
男が難しそうな顔でそう呟く。
しばらく考えた後、男は資料室を後する事にした。
大勢の学者が頭を捻っても解らない物だ、一端の学生である自分に解る訳がない、と。
照明の切られた資料室には、その奇妙な化石──「ブリュッセルの悪魔」──が、変わらず鎮座していた。
この男「大頭博人(おおがしら・ひろと)」は、幼少の頃より未確認生物……つまる所のUMAに惹かれていた。
自分の知らない世界、知らない場所、そこに息づく見たこともない生物。
それらを知りたいと思っていた。
だがら、この世界中からよく解らない生物の標本なり化石なりが集まってくる、「魔界」のあだ名で呼ばれる黒金大学に、両親の反対を押しきって入学したのだ。
……だが。
「よーおぉオオアタマ!今日もブリュッセルの彼女さんと見つめあってたのかー?」
おどけた様子で博人に語りかける、傍らにケバい女を引き連れた頭の悪そうな金髪。
自称、「博人の悪友」たる彼は、まさにこの黒金大学の学生の代表格のような男であった。
「君こそ、講義にも出ないでデート?あと、僕の名前はオオ“アタマ”じゃなくてオオ“ガシラ”ね」
「いいだろ別に、あだ名みたいなもんだろ?」
「よくない」
乗り気な悪友に対し、鬱陶しそうに言葉を返す博人。そんな会話を繰り返すのは、もはや彼の日常である。
ここ、黒金大学は世界中から様々な怪生物の標本なり化石なりが集まる。
しかし、それに対する研究や解析はそれほど盛んには行われていない。
何故か?理由は二つ。
金がないから。
金にならないから。
近年、ジパングの経済は悪化の一途を辿り、政府は無駄な事に資金を出さなくなった。
ここだけ聞けば節約のようだが、実際の所は「目先で見て金にならないと思った物に投資しなくなった」という事。
UMA研究だなんて、観光効果以外に金にならないから、当然政府は研究資金なんて出さない。
故に、件のブリュッセルの悪魔についての研究もできない。
結果、かつてはかのアルバード大学と並ぶ古生物学の聖地であった黒金大学は、歴史資料の解析で凌ぎを削り、学生は講義にも出ずサークル活動や悪友のような恋愛事に明け暮れる、ド三流大学へと堕落した。
今や、真面目に古生物学の講義を聞いているのは、博人ぐらいだろう。
それが何の役に立つのですか?
昔、そう言って大学院の研究費を事業仕分けの元にカットした国会議員を改めて恨めしいと、博人は思った。
「というか君も、そろそろ講義出たら?単位ヤバイんじゃないの?」
「うっ……」
まあ、こういう輩がいじめてこなくなっただけ、中高よりはマシか。
と、単位が足りなくて卒業がピンチな事を指摘されてバツが悪そうな悪友を見て、博人は心の中でにやけた。
「ひどい!私よりも単位の方が大事だって言うの!?」
「な、ばっ、誰もそうとは言ってないだろ?!」
悪友の彼女が、まるで浮気でもされたかのようにわめき出す。
ああ、安定の女子思考女か、と呆れる博人。
「じゃあな、俺明日の講義早いから」
そう言って、博人はそそくさとその場を立ち去る。
後で知った話だが、悪友は彼女の機嫌を直すのに財産の半分を失うハメになったとか。
講義が午前中で終わった為か、日はまだ高い。
大学の中庭で背伸びをした後、下宿先のアパートに戻ろうか等と考えていた、その時だった。
「大頭博人さんですね?」
背後から声をかけられ、振り
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