太陽の沈む刻

僕は太陽が嫌いだ。


射し込む日射しは、今日もまた憂鬱な時間が始まるという事を告げているのだから。



…………僕は「月野平郎(つきの・へいろう)」。高校一年生。
ふざけた名前?僕もそう思うけど、それは両親に言ってくれ。
背が低い?それは僕の自己責任ではあるが、直したいとも思わないので諦めてくれ。


僕が通う、ここ「私立円崇学園(しりつえんすうがくえん)」は、大昭時代に建てられたという。

新築の校舎と、木造の旧校舎から成るその学園は、長い歴史を持つ。
が、そんな伝統などどうでもいい。

というか、気にする余裕すらない。

何故なら…………。



「う"っ…………」

臭い。
下駄箱を開けた途端形容しがたいにおいが広がった。

無論、年頃の男子なので体臭ぐらいするが、明らかに人のにおいではない。

目の前には、残飯と果物の皮でデコレーションされた上履きが見える。

………ああ、またか。

ホームルームまで時間がない事もあり、僕は上履きから適当に残飯を払うと、そのまま履く。
汁は仕方ないとしてもやはり気持ち悪い、昼休みあたりに洗わないと。

そう思いながら歩いていくと。

「おうぇーーーいっ!!」
「がッ……!?」

唐突に顔面に激痛と衝撃が走る。
そのまま後ろに吹き飛ばされて、僕の身体は地面に叩きつけられる。

いつもの事ではないが、よくある事だ。

「ったくよォ〜〜ッ清掃委員ってのは大変だなァ!でっけえゴミが落ちてたら掃除しなきゃならねーんだからよォ〜〜ッ!」

顔を押さえる僕を、僕を殴った犯人であろういかにも柄の悪そうな男子生徒が、その手に持ったモップでガシガシと叩く。
周りの生徒は助けない所か、笑っている生徒もいる。


………これが、僕の日常だ。

いじめ、と言うにはあまりにもえげつないと思うが。


背も低く、運動も下手であった僕は、中学に上がると真っ先にいじめのターゲットにされた。

今回のような事例はまだいい方だ。


ある時は、クラスの人気者の男子が体育でドッジボールを行った時、故意に僕にボールを集中してぶつけてきた事もあった。
全身を打撲し、何日かは歩くたびに痛みに襲われたのを覚えている。

またある時は、教室を出ている間に、弁当の中身を捨てられた事もあった。
結局その日は、一日を空腹で過ごす羽目になった。

休み時間に教室に止まっていればちょっかいをかけられるので、必死に隠れる所を探す毎日。

担任に相談だって?
したさ。でも帰ってきたのは「面倒を持ち込むな、お前一人が我慢していれば済む事、それが社会だ」という返答。

一番ショックだったのは、いじめに耐えかねて両親に相談した時だ。
僕が学校で受けている仕打ちについて話したら、何と言ったと思う?

「たしかに辛いかもしれない、だが、それをバネにして頑張り、奴等を見返してやれ!」

……失望、というのはこういう事を言うのだと思う。
生憎僕は昔のスポ根漫画の主人公ではない。
悔しさをバネにする前に、叩き潰されてバネとしての機能を失う方が先だ。


僕が太陽を嫌う理由はこれだ。
日中は学校ではいじめられるし、親がこんなでは不登校をやる事もできない。

あのギラギラした日射しも、まるで僕を晒し者にして嘲笑う奴等の目線のようで嫌いだ。


……でもまあ、先生の言う通りこれが社会なんだろう。

誰か少数が犠牲になる事で形作られる。
その犠牲が、ただ自分だっただけだ。

不登校もできないようであれば、そう思って諦めるしかない。



…………それに、学校も悪い事ばかりではない。



………………………………………………



放課後、僕は普段使われていない、旧校舎の奥にある視聴覚室に向かう。

日は沈みかかり、地平を紫の光が照らしているのが、窓から見える。
僕は太陽は嫌いだが、この太陽の沈む瞬間は大好きだ。
優しい光であると同時に、灰色の時間の終わりであり、“僕にとっての一日”の始まりだからだ。


「…………レイラさん、いますか?」

そう言いながら、僕は視聴覚室の扉を開く。
鍵は最初から開けられていたが、古いためかすこし音がする。

「待っていたわ、ペロー」

黄昏時の紫の光に照らされた、すらりとした長身の人影が、優しい声で僕を「ペロー」と呼んだ。
彼女のつけてくれた、僕の平郎という名前と、猫が登場する童話を由来とする、彼女だけが呼ぶ僕のニックネームだ。

…………普段クラスメートが呼ぶ「へろ虫」は、どちらかというと蔑称なのでニックネームではない。

「ご、ごめんなさい、待たせてしまって……」

キョドりながら、僕が部屋の中に進むと、彼女の姿がはっきりと見えてきた。

髪は漆塗りの工芸品のように黒く、そして艶やか。
目は切れ長で、黒曜石のような瞳が輝いて見え
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