暴力的な

暗い部屋、天井近くにある格子付きの窓から地面から生えた芝生と思われる緑が見える事から地下室だろうか?
そこに適度な柔らかさを持つ何かを殴り続ける湿り気を含んだ音と金属音が延々と響いていた。
少し視線を反らしてみよう、すると何者かが何かに股がり、ソレを殴り続けているのが見える。
もうどれだけ殴り続けているのだろうか? それは我々には分からないし、知る必要の無い事だろう。
不意に殴ることを止めて、人影は問う。
「何で抵抗しない?」
その問いは男の声で、殴られていたソレは男に応え、喋りだした。
「これを貴方が望むのなら、それが私の望みだから」
「ならどうして?」
「こうでもしないと、貴方は私を奪わなかった、そうでしょう?」
女は男に嘘を吐いていた、『好きな人が居て、告白された』と。
男は激昂し、女を連れ去り、この暗い地下室に閉じ込め、殴り続けていたのだ。
冷静になれば、嘘だと分かったハズなのに。
何故なら、彼女は男より強かった、つまり抵抗は容易かったのだ。
にも関わらず、なぜ殴られ続けていたというのか?
「だってそうでしょう?」
女の問い掛けに全てを悟った男は険しい表情から穏やかな表情へと変えて答えた。
「・・・あぁ、そうだな」
「ここなら貴方は私だけを見続けてくれる」
「ここならお前を誰にも見られない」
ここまで聞けば、君達にも分かっただろう?
女は男を独占したかった、そして男もそれは同じだった。
「貴方に襲われるのは大変だった
 人里離れた場所に地下室を作り、拘束具も用意した
 そして貴方との距離を付かず離れずに保ち続け、貴方の心を焦らした
 それは私にとっても苦痛だった、でも、今は幸せでしょう?」
「そうだな、都合良く監禁調教モノの小説をお前が落とした時点で気付いていたさ
 だが、殴られて抵抗しないのには驚いた」
「ふふ、だって急所を的確に外してくれてるんですよ?
 寧ろ気持ちいいくらいです、だって貴方に殴られているんですよ?」
「反撃で殺されても良かったんだがな」
「そしたら私も死んであげますね?」
「そうか、それは安心だな」
「私は蜘蛛ですが、愛する人を殺して自分だけ生きるなんて耐えられませんから」
「食べてはいるだろう?」
「違います、食べたのは貴方で、蜘蛛の巣に囚われたのは私です」
「だがその巣は君が作り、君が私を誘い込んだモノだろう?」
「そうですね、でも、私は貴方に束縛されたいんです、貴方の望むものを全て貴方に捧げたいんです
 そうですね、私の腕を食べますか? 私の足を食べますか? 私の目を食べますか?
 たとえそれを望んでも、私は喜んで貴方に捧げますよ?」
「生憎、私は永く楽しみたいタチなんだ」
「奇遇ですね、私も出来れば永く幸せに浸っていたいタチなんです」
・・・ま、これ以上は野暮というモノか。
なんだ? まだ気付いていないのか?
二人はこの後、失踪した、彼の妻も子供も彼を心配したし
女の両親や婚約者も、彼女の心配をした。
最終的に見付かったのは血塗れの男女の衣服の残骸だったがね。
なぁ、急所を外していたとはいえ、どうして女は生きていた?
男はどうして女と共に逃げられたと思う?
二人は人間だったんだ、その時はね。
熊や猪に喰われる危険性だってあったのに、だ。
実は女は男にプレゼントを送っていてね、ネックレスだ。
殴る時、拳に巻いていたが、それはとある旅商人が女性に売った物だ。
何も女性だけが蜘蛛になる訳じゃぁ無いのさ、今の二人を端から見れば女が男を捕らえたように見えるだろうがね。
だが二人は面識も、付き合いも殆んど無かった。
そんな二人が、どうしてそこまでの愛を持てたのだろうな?
男は特に才能や美貌に恵まれた訳では無い、性格が優れている訳でも無い。
まぁ、つまらないネタばらしだが、ストーカー同士の愛は理解できない、そういう事だよ。
16/12/09 16:48更新 / 通行人の名無し
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