続く今日と世界

 茜色の太陽が沈みかけ、夜の訪れを告げる宵闇に取って代わろうとする時間帯を、一人の少年が学校からの帰り道についている。
 中嶋理人(なかじま りひと)。それが少年の名であった。
 目の前の道路を渡れば、自宅であるマンションはすぐだ。特に急ぐ理由も無く、横断歩道の赤信号が青に変わるのを理人は待っていた。
 辺りには会社帰りのビジネスマンや、手を繋ぎながら帰り道を行く親子が歩いている。幾度となく見てきた日常の風景であった。
 ふとしていると、理人の視界に一人の女性が飛び込んできた。向こう側の歩道を一人で歩く姿に、理人の目は釘付けになった。
 上は白のレディスシャツ、下は黒のスカート。肩にはビジネスバックを掛けている。堅実な装いだが目を引く。というのも体のラインがはっきりとしているのだ。
 しなやかでありながら貧そうでないのは、女性が持つ丸みと豊満さが富んでいるからだ。
それを象徴するのが胸のふくらみ。シャツの上からでもはっきりと分かる豊かさを主張していた。シンプルな白のシャツを着ているせいか、バストがより強調されている。
スカートから覗く脚はほっそりとしていて、ストッキングを穿いていた。目や鼻筋も整っていて、文句のつけようのない美人だった。
女性と理人の視線が一瞬だけ交差したとき、ウインクが返ってきた。
どぎまぎしているうちに、女性はビジネスバッグを揺らしながら歩き去っていった。理人と同じマンションの方へと。
後姿を見送ってようやく落ち着きを取り戻したとき、頭の中である疑問が浮かんできた。
(あの人もそうなのかな?)
 思考は続かなかった。先程まで赤だった信号が青を通りこして点滅し始めている。変わらないうちに理人は横断歩道を渡った。



 五階にある部屋の前に立ち鍵穴にキイを差し込んだとき、理人はあることに気づいた。
 ゆっくりと鍵を戻し、ドアノブを握り、扉を引く。施錠されているはずのドアが微かな軋みを響かせながら開いていく。
 目の前には廊下とリビングを隔てるガラス戸。磨りガラスから漏れる光が薄暗いはずの廊下を照らしている。蛍光灯の光だ。
(もしかして・・・)
 靴を脱いで廊下を進み、戸を空けリビングへと入った理人の目に飛び込んできたのは、登校前と寸分違わぬ光景であった。テレビやソファ、リビングテーブルの上に置かれたテレビのリモコン、雑誌などがそのままの形で放置されていた。何一つ変わっていない。点いているはずのない明かりが灯っているのを除けば。
 空き巣の類ではない。あれは押し入ったことを住人に悟られないよう、痕跡を最小限に留める。電気をつけたまま鍵を戻さない空き巣などいるとは思えない。
 大抵の人間ならば気味悪がり、警察に通報するなりなんらかの行動にでるが、理人はその場に立ち尽くし、声を上げた。
「利奈(りな)姉さん、いるんでしょ」
 そう言った途端、背後に気配を感じて振り返った途端、顔全体に柔らかな感触が伝わってきた。
「おかえり。理人」
 ただいま、とは言えなかった。言おうにも口が塞がって返事ができないのだ。おまけに理人の頭はしっかりと押さえられている。
「む・・ぐ・・・」
「んふふ。どうしたの?」
彼女の名は赤樹利奈(あかぎ りな)。隣の部屋に住む年上の幼馴染だ。彼女はこうして気安く中島家に出入りしては理人に過激なスキンシップをしかけて楽しむのだ。自分の胸に顔を押し付けるようなスキンシップを。
「ぷはっ」
 なんとか呼吸できる空間を確保し、上目づかいに利奈の顔を見やる。凛とした眼差しに、悪戯っぽい光が宿っている。
「姉さん、お願いだから普通に入ってきてよ」
「あらん。こんな綺麗なお姉さんが疲れを癒してあげてるのに、理人ったら不満なの?」
「そうじゃなくて・・・ともかく、放してよ」
 なんとか谷間から解放されて、改めて利奈と向き合う。
 なめらかな質感を保った髪が背まで伸びており、みじろぎすればさらさらと音をたてて流れていきそうだ。
身に着けているのは黒のチューブトップで、白い肌に似合っていた。穿いているショートパンツは大胆にカットされていて、長い脚が腿の半ば辺りまで露出している。
 ウエストは細くくびれ、首筋や肩のラインからはひ弱さは微塵も感じられない。誰に問うても美人という返答が返ってくる容姿だ。目のやり場に困る服装ではあるが。
「ちょっと理人」
「な、なに?」
「なに、じゃないわよ。ちゃんと言うことがあるでしょ」
 腰に両手を当てながら前かがみになる利奈は少し怒った顔をしている。一方、理人の目は泳いでいた。彼女の胸元で揺れる二つの膨らみが原因だが、なんとか自分を落ち着かせてから考えて、言うべき言葉を発した。
「・・・ただいま」
 そう言うと利奈はにっこりと笑い、返事をした。
「おかえり」
 ほころぶような笑顔にしば
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