セカンドコンタクト



長い人生、時にはあらゆる業界を騒がせるような事件に出くわすこともあるが、表沙汰にならないこともまた多い。



というのもあまりにあまりな内容だった場合はパニックになる可能性があるからだ。




例えば24時間後に日本は核攻撃を受ける、という情報が流布されたとしよう。




仮にこの情報が誤りであったとしても大多数の人が信じれば、それはもう真実と遜色はなくなる。


こうなればもう国中パニックである。


あらゆる空港が人で埋まるだろうし、自棄を起こした国民が暴徒となって暴れるというのも十分考えられる。


故に政府は、このような情報は、ギリギリまで伏せて、事態収束につとめるだろう。


さて、そんな事件に偶然出くわしてしまった場合、どうなるのだろうか。


どうということはない、もしそのまま解決したならば、捨ておかれるのだ。





広島県広島市、私はとある用事があり市内の田舎に来ていた。


季節は夏、蝉の声が騒がしいような季節であった。


「しかし、暑いな・・・」


山道を歩きながら私は額に浮いた汗を拭った。

山道はずんずん上に続いており、どこまで道が続いているのかわからなかった。




そんな人里離れた山道ではあるが、道沿いに小さなバス停があった。

質素ながらベンチと屋根もある、ありがたい少し休憩させてもらおう。


私はバス停のベンチに腰掛けると、ゆっくりと息を吐いた。

バス停の裏側には渓谷があり、ゆるやかに川が流れていた。

ぼんやり渓谷を眺めていて、私は胸元で何かが震えるのを感じた。


「勾玉が、反応している?」

とある大切な人物から贈られた紅の勾玉が、私の胸元で震えていたのだ。


これはこの世界のものではなく、別の世界で作られたものだが、このように反応することなど今まで一度もなかった。


じっと、目を凝らしていると、渓谷の向こう岸に一人の少女が立っていた。

手にしているのは刀か、何やら怪しげな動作で彼女は手に持っていた刀を抜いた。


刀はよく見えないが、諸刃の直刀のようで、シンプルな造りだった。


彼女はそれを渓谷の一部に突き刺しては抜くという動作を数回繰り返したのち、刀を鞘に収めて去っていった。



「何だ?」

気付くと勾玉は反応をなくし、元の静かな状態に戻っていた。

夢でも見ていたのか?、私はゆっくりと立ち上がると、バス停を後にした。




「まあ、キョウくん、久しぶりねー」

山の中にある私の母の実家にたどり着くと、祖母が私を出迎えてくれた。


「どうも、ご無沙汰しています」

頭を下げて、私は家に上がると、仏間で手を合わせた。



私を随分可愛がってくれた祖父が亡くなり、もうすぐ十年になる。

未だに実感はないが、仏壇に飾られた遺影を見ると現実を感じる。



友もなく、家族も信じられない孤独な日々の中で、ただ祖父母だけは私の味方になってくれた。

私の会得した剣術も、祖父が伝授してくれたもの、私は祖父から色々なものを貰った。




居間に入ると、既に祖母は昼食を用意してくれていた。

「食べていきんさいな、キョウくんの好物を用意しとったよ?」

食卓には焼いたホッケの他に山菜の雑炊、酢蛸が並んでいた。

「ありがとうございます、ちょうど空腹だったところです」

久しぶりの好物に、私は目を細めながら食卓についた。



食事を終えると、私は実家を後にしてまた長い山道を歩き始めた。



時刻はすでに昼の二時、急がずとも新幹線には十分間に合う。


山道をのんびり歩いていると、またしても勾玉が震えだすのを感じた。

「っ!」

そこはさっきのバス停の前。


ズンっ、と突き上げるような振動の後に、何かが崩れるような音が響いた。

「なん、ですか?」

バス停越しに渓谷が崩れ、そこから人ならざるものが現れるのが見えた。

赤い身体に炎のような気運、全裸と見まごうばかりの扇情的な姿、間違いなく人間ではない。


「おっ、なかなかの匂いだな」

そしてその少女は明確に私に狙いをつけた。


「はっ?」

「とうっ!」

ひとっ飛びで私の近くにまで来ると、その少女はジロジロ私を眺めた。

「ふーん、何だかよくわかんねーけど、目が覚めたなら仕方ない」


少女はどこからともなく巨大な炎の剣を取り出した。

「イグニスのデメゴール、貴様の貞操を頂くぜっ!」





広島の山を急いで走り降りながら、私は後ろを振り向く。


「待ちやがれー、動くと斬るぜっ!」

無茶苦茶なことを叫びながらイグニスが追いかけてくる。


「ちっ!、こういう不思議なこともあるのですかっ!」

今は彼女の正体や何故こんなことになったか考えているかの余裕はない。

すぐさまなんとかしないと貞操
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