『主命
ペネロペ付き近衛騎士四道涼風
学術国家ウェルスプル国立大図書館にて数ヶ月精霊学を学び、教団と国家にさらなる安定をもたらすこと
レスカティエ王宮』
風霊術で空中を移動すること数時間、涼風は学術国家ウェルスプルに到着していた。
「ここがウェルスプル、か」
まさか話しをしている最中に話題に出ていた都市にいく事になるとは思わなかったが。
「ともかく、まずは国立大図書館、だな」
馬を引きながら涼風はウェルスプルのメインストリートを歩いていく。
大通りには私塾や本屋、さらには図書館などが非常に多く、学問の総本山という感じがした。
「しかしすごいな・・・」
レスカティエの大図書館もかくやというほど巨大な図書館が複数あるが、それよりも遥かに大きい図書館が国立大図書館だ。
外見は巨大な塔であり、ビルに換算すると10階は優に越えるだろうか。
「ようこそ学術国家ウェルスプル、国立大図書館へ」
中に入るとすぐに眼鏡をかけた司書の少女が出てきた。
「私は精霊学書物管理担当のオリガ・トリスレイ、四道卿、あなたの来訪心より歓迎いたします」
短髪に、赤く理知的な目つきだが、他者を見下すような傲慢な目線はなく、ただ剃刀のように鋭い光に満ちた瞳だ。
図書館を案内しながらオリガはさまざまな話しをした。
「ここ国立大図書館には古今東西あらゆる書物が収められており、精霊学の書物を一日に四・五冊読んだとしても数ヶ月で全て読破することは不可能なほどの書物があります」
と言うことは少なくとも一つの分類で五百冊は遥かに上回るだけの蔵書量というわけだ。
あまりの量に涼風は冷や汗が出てきた。
「そこで卿の滞在中は私オリガが公私ともにお世話をさせていただくことになっています」
つまり読む本は勿論、様々な面倒を見てくれるわけか。
「よろしく頼む、オリガ」
名前を呼ぶと、オリガはぴくりと固まった。
「?、どうかされたかな?」
「い、いえ、なんでもありません、とりあえず案内はここまでにして本日の課題に入りましょう」
さて、大図書館の別室に通されると、オリガは無数の紙束を持ってきた。
「論文のようだな」
「ご明察です、これは聖ウェルスプル学院の卒業論文ですが、あまりに出来がいいため写しを大図書館で保管しています」
机の上に広げられた論文の名前欄を見て涼風は目を細めた。
「サプリエート・スピリカ・・・」
呟いた名前を聞いてオリガは頷いた。
「そうです、聖ウェルスプル学院始まって以来の天才と言われている方です、今はどうされているのか」
論文をペラペラとめくりながら涼風はノートをとるが、改めてスピリカという女性がどれほどの人物かがわかった。
「・・・(豊富な知識に精霊についての独自の見解と考察、二年で試験をパスするだけはあるな)」
時間も考えずに論文を読みふけり、オリガが部屋に入って来る頃には全て読み終えていた。
「お疲れ様です、閉館の時間となりましたので宿舎にご案内いたしますね」
日が傾いたウェルスプルの街をオリガと肩を並べて歩く。
彼の宿舎は大図書館から歩いて五分のところにある小さなアパートだった。
中に入ると小さな机と寝台があり、必要最低限の家具は揃っていた。
「卿はお休みください、すぐにお食事にいたします」
「え?、まさか調理するつもりなのか?」
驚く涼風だがオリガはにこりともせずに頷いてみせた。
「はい、公私のお世話をするように申しつけられております、なにか問題が?」
問題は何一つないが、そこまでしてもらっていいものか。
「お気になさらず、卿は学習したことの復習でもしていてください」
とんとん、と台所から音がする中、落ち着かない気分で涼風はノートにペンを走らせる。
『なんだかマスター挙動不審じゃない?』
『意外と押しに弱いのかもしれませんね』
などと精霊たちが噂話しをしている中、料理が完成した。
「四道卿はジパング出身と伺っています、卿の故郷ではこのような料理を食べられているのですか?」
出された料理は白米に味噌汁、焼き魚と日本の一般的な食事だ。
どうやらジパングも日本と似たような文化と風習を持っているようだ。
手を合わせて焼き魚をつまんでみるが、なるほど、濃すぎず薄すぎず、絶妙というべき味に仕上がっている。
「これは、美味い・・・」
「お気に召していただけたようで何よりです」
淡々とオリガは告げたが、どことなく嬉しそうだった。
『ね、ね、マスター、私にも一口』
風鳴の言葉に魚を箸でつまんで口に放り込んでやる。
『んん〜、いいお味』
というか精霊も普通の食事を食べられるのか。
ふと、オリガが風鳴を見つめていた。
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