レスカティエ西部にある川沿いの村、そこは以前から洪水がよく起きる地域だったらしい。
だが、つい最近急に洪水が起こらなくなり、かわりに川から声が聞こえるようになったのだと言う。
「その声とは?」
馬を走らせながら話しを聞いていた涼風だが、ペネロペの真剣な表情に、手綱に力がこもるのを自覚した。
「『川を汚さないで』、もしかしたら川に新手の魔物でもいるかもっ、てことね」
ペネロペの言葉に、涼風は手にしていた操霊斧鉾が微かに反応するのを感じた。
「・・・(何だ?、何やら奇妙な感じだが)」
『マスター、気づいた?』
ヒソヒソと風鳴が口を開く。
『川からの声、多分だけどただの魔物じゃなくて、精霊だよ?』
「・・・ふむ、ともかく話しは現場に着いてからだな」
馬を走らせ、王女と騎士はレスカティエ西部の川にたどり着いた。
「お待ちしておりました、ペネロペ殿下に涼風将軍」
すでに川沿いにはいくつかの幕舎がたてられ、レスカティエ兵士があちこちを歩いている。
「お疲れ様です、状況はどうですか?・・・(将軍?)」
涼風は手短に様子を伺う。
「今のところ調査は全体の半分以上完了しています、しかし未だ魔物の姿は確認できません」
河川沿いにあちこち調べたらしいが、それらしき魔物は発見出来ないのだという。
「(風鳴、どう見る?)」
『うん、精霊で間違い無いと思う、けどあまり大人数だと精霊は現れないと思うよ?』
ふむ、ならば部隊は下がらせて少数で調べるべきかな?
「一旦部隊は後方に撤退、少数の斥候で探ってみましょう」
「了解、ただちに」
小一時間ほどで幕舎は引き払われたが、すでに夜になっていた。
「さて、どう出る、か」
涼風は地面に操霊斧鉾を突き立て、様子を伺う。
すでに斧鉾は全体が微かに震えているのか、地面の表面を揺らしている。
『川にいる精霊なら多分水の精霊ウンディーネだと思うよ』
ウンディーネか、不浄を嫌う水の精霊というイメージだが、どんなものやら。
「この感じ、精霊使い?」
「っ!」
川から声がした、しかも操霊斧鉾がこれまでにないくらいに反応をしている。
「来たか」
『うん、やっぱりウンディーネみたい』
静かに川に注目していると、やがて水色の肌を持つ長い髪の少女が川から上がってきた。
「君が、水の精霊、ウンディーネかな?」
涼風の言葉にウンディーネは頷いてみせた。
「はい、わたくしは水鏡(みかがみ)、ウンディーネです」
「そうか、私の名前は四道涼風、後ろにいるシルフの風鳴と契約した風霊使いだ」
水鏡は涼風と、その後ろに浮かんでいる風鳴を見た。
「精霊使いの方ですか、レスカティエではかなり稀有かと思っていましたが・・・」
「まあ、たまにはこういうものもいる、ということだ」
ふっ、と微笑むと、涼風は真剣な表情で水鏡を見つめた。
「この川では昔から洪水が多々あったと聞いていたが・・・」
涼風の言葉に、水鏡は困ったように頭を掻いた。
「確かにそうでした、実は昔はこの川にはたくさんのウンディーネがいて、よく揉め事があると洪水となってあたりに・・・」
「なくなったということは、ウンディーネがいなくなったのかな?」
素早く質問した涼風の疑念に対する返答は、やはり肯定だった。
「ご明察のとおりです、わたくし以外のウンディーネたちはみんなレスカティエから引っ越してしまい、今はわたくしだけです」
とするなら別に問題でもなんでもない、たしかにウンディーネの揉め事の弊害が人間に来るのは困りごとだが、解決したならばもうそれでいい。
「・・・あの、あなたを精霊使いと見込んで一つお願いしても構いませんか?」
来た意味はなかったかな?、そう考えていたとき、水鏡は藪から棒にそんなことを言っていた。
「何かな?」
「わたくしと契約して、水霊使いになっていただきたいのです」
いきなりの依頼に、どういうことなのか涼風は尋ねてみた。
「ご存知の通り、ここレスカティエは反魔物の根拠地、精霊も魔物扱いする風潮が少なからずあります」
それは涼風も感じていたことだ、レスカティエの、特に上層部は教団の人間だからか、異常に魔物を敵対視している。
ひょっとしたら先ほど水鏡が言っていたウンディーネの移住もその辺りが関連しているのかもしれない。
「ですが精霊使いの使役する精霊となれば、幾分かはマシな評価となります」
たしかに涼風も精霊使いとなってから、畏敬の目で見られることが増えた。
土地によっては未だに精霊を崇拝している場所もあるようで、反魔物のレスカティエでもそれなりの評価となるようだ。
もちろん魔物の力で戦うとし
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