九重が現れた先は何やら物々しい野営地だった。
あちこちにテントがあり、まるで戦いの最中にいるようで、雪国なのかかなりの雪が積もっている。
「君は、九重かっ」
聞いたことのある声に振り向くと、そこにはサーガ皇女がいた。
「久しぶりだな、君が来てくれるならば心強い」
野営地を歩きながら、そうサーガは告げた。
「その鎧に新たな剣、私の知らない場所でかなりの修羅場をくぐり抜けたようだな」
メルコールとの戦い、だが九重はそのことを話す気にはなれなかった。
「ここはどこですか?」
九重の言葉にサーガ皇女は少しだけ怪訝そうな表情をしていたが、やがて頷いた。
「ここは大氷原、エディノニアの建国者、カインの墓所がある場所」
カインの墓所、何故自分はそこにいるのだろうか。
「カインの墓所、闇の神殿にウルクソルジャーが集まっている」
すなわち、ここが桜蘭の最後の拠点と言うわけか。
「すでに七大英雄にも書簡を出した、いよいよ桜蘭との決戦だ」
そう告げたサーガだったが、九重はその瞳の奥にあるやりきれないものに気が付いた。
「やっぱり、自分の子孫との戦いは嫌ですか?」
九重の言葉に、サーガは軽く頷いた。
道を誤ったとは言え、キバはエディノニア皇国と人間のことを第一に考え、時代さえ平和ならば名君になったであろう人物。
そんな人物との戦いは、やはり辛いだろう。
「けれども、キバは今やアメイジア大陸全体の敵、彼女は、私が斬る」
「あまり尊属殺人はおすすめしないわよ?」
野営地にリエンを含めた英雄たちが現れた。
「みんなっ」
「九重、無事で良かったわ」
きゅっと九重を抱きしめるリエン、だがかすかにその身体は震えていた。
「お姉ちゃん?、寒いの?」
「ううん、あなたと一緒なら、寒くないわ」
もしかしたらこれが今生最後の触れ合いになるかもしれない、リエンはかすかに目を伏せ
やがて九重を解放した。
「準備は出来ている」
サファエルの言葉にサーガは頷いた。
「うむ、こちらはエディノニア軍に禁軍を含めて四万の大軍、闇の神殿にいるウルクソルジャーは無尽蔵かもしれぬが、こちらが不利な以上は短期決戦にてケリをつける」
九重らは頷くと、それぞれ両の瞳に決意を滾らせた。
夜、いよいよ明日は最後の戦いと思うと、九重は眠れず、夜空を眺めていた。
「九重、起きてる?」
すぐ近くの幕舎からリエンが出てきた。
「リエンお姉ちゃん」
「決戦の前に一言謝っておくことがあって、ね」
そう告げると、リエンは軽く目を伏せた。
「もうわかってるかもしれないけど、私は君を初めて見たときにはすでにこうなることはわかってたの」
未来よりアメイジア大陸の平和を築く英雄、その過去の姿である九重を導くためにきた、故にリエンは最初から彼が苦難に遭うのを知っていたのだ。
「許せない、というなら気持ちはわかるわ、だからせめてあなたの気がすむように罵ってほしい」
リエンの言葉に対して九重はほのかに微笑した。
「僕はお姉ちゃんに感謝してるよ?」
驚いたように目を見開くリエンだが、九重は言葉を繋げる。
「リエンお姉ちゃんがいたから僕は色々な人たちと出会えたし、強くなれた、僕はお姉ちゃんを嫌ってなんていないよ?」
リエンはしばらく呆気にとられていたが、やがて目を閉じた。
「・・・一つ約束して?」
「?」
すっとリエンは目を開いた。
「もしこれから先、貴方が望む未来を得るために私が犠牲になるなら、必ずそうしてくれない?」
「それは・・・」
「出来ない?、けれど未来は一つじゃない、無数にある明日から一つ選ぶこと、その明日には私がいないこともあるわ」
黙り込む九重にリエンは笑いかけた。
「ここまであなたを利用したのだもの、それくらいはするわ」
「僕は、誰も失いたくない、それが、僕の願う明日だから」
九重の言葉にリエンは少しだけ、寂しくなったが、やがて口を開いた。
「そう、それは夢のような未来ね」
リエンはポケットから、いくつかの小さな鉱石を取り出した。
「けれど夢は夢でしかない、現実を生きるならば、いずれ夢から醒めないといけない」
鉱石を魔力で削り、リエンは九曜紋のような小さな首飾りを作り出した。
「でも、一人くらい、夢を覚えていてもいいかもしれないわ」
あなたと話せて良かった、そう呟くと、リエンは九重に首飾りをかけ、ゆったりと幕舎に戻っていった。
あの若き英雄は知らない、そんな未来は不可能であることに。
だがリエンは、少しだけ、九重を信じてみる気になった。
「敵は闇の神殿周りをぐるりと取り囲んでいます」
神殿最奥にて目を閉じながら座すキバはカオスからの報告に瞳
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