「馬鹿な、サーガ殿が、エディノニア皇国が敵についたというのかっ」
祭礼の谷、儀仗園庭には実に数日ぶりに各種族の代表が集まっていた。
各種族とはエルフ、ドワーフ、人間であるが、数日前に人間代表サーガが座っていた場所は空席となり、代わりに七大英雄代表ラグナスと九重の席が増えていた。
さて、先ほど九重は七大英雄全員の説得を終えたことを報告し、その最中に現れた反魔物結社の話をして。
ラグナスは九重の後に桜蘭での戦いについて解説していたのだが、エルフのレオラは信じられないようで、声を上げた。
「ああ、そうだ、レオラに賛成するのは癪だが、何かのまちがいじゃねぇのか?」
レオラに同意するはドワーフのギム、彼女らは九重やリエンよりもサーガとの関わりが長い、ゆえに反魔物結社を率いていることが信じられないのだ。
「・・・けれど見た顔は確かにサーガ皇女だったわ」
淡々とリエンはそう告げたが、レオラは険しい表情で思案している。
「・・・仮にそうだとして、どうすれば我々でエディノニアと渡り合える?」
サーガ皇女の率いるエディノニア皇国はアメイジア大陸一の統一国家、魔物たちが協力すれば打倒できなくはないかもしれないが、甚大な被害を受けるだろう。
おまけに桜蘭には未だその全容を明らかにしていないメルコールの骸まであるのだ、真っ当な手段では勝ち目は薄いかもしれない。
「・・・まだサーガ皇女が桜蘭のリーダーと決まったわけじゃ・・・」
そう言う九重ではあるが、リエンは九重に視線を向ける。
「九重、あなたはキバの正体を見ている、あの顔はサーガ皇女のもの、そして・・・」
エディノニア皇国皇位継承権一位であるサーガが桜蘭を率いている以上、エディノニアとの戦いは避けられない、そうリエンは考えていた。
「ともかく当初の予定、七大英雄との交渉は完了したわ」
ちらっとレオラは九重を見る。
「ならば九重に関しては、もう任務を解いてもいいかもしれないわ」
レオラがそう告げた瞬間、ラグナスの瞳に激しい感情が浮かび上がったが、そんなことには気付かずにレオラは続ける。
「七大英雄は桜蘭との戦いが終わるまでは力を貸してもらえるのかしら?、大魔王メルコールすら倒す実力者揃い、一軍の将にしてもまだ足りないかもしれないわね」
それなりのポストは用意する、だから協力しろ、とレオラは言外に告げていた。
「・・・そうだね、この世界のためならば英雄もみんな命をかけるかもしれないね」
なら、とレオラが口を開こうとしたがラグナスはそれを制した。
「ただしその対価は支払って貰わないといけない」
「各自一軍の将、勝利したならば直轄領の支給、いかがかしら?」
ふるふるとラグナスは首を振った。
「そんなものに興味はない、僕が欲しいのはただ一つ」
ラグナスは九重に笑いかけた。
「九重きゅんだけだよ」
儀仗園庭全体に戦慄が走った。
レオラは目を見開き、ギムも顔色を変え、リエンに関してはこめかみを押さえている。
「聞き捨てならないわね」
いきなり儀仗園庭にツクブが入ってきた。
「九重は私のもの、最初からそう決まっているわ、ねえ九重?」
ツクブの瞳がまた妖しく輝き始めたが、ぐりんと不自然に首が曲がった。
「あにすんのよっ、クオンっ」
ツクブの睨みつけた先には指を折り曲げているクオンと静かに圧力を与えているクインシーがいた。
「たわけがっ、魅了魔眼を使おうとするなっ、第一九重はそなたのものではない」
「そう、九重は、私の・・・」
ばちばちと火花を散らすツクブとクインシー、右往左往する九重だが、いきなり後ろから誰かに抱えられた。
「ダンお姉ちゃん?」
「九重、ちょっと鍛錬に付き合えよ、こんな会議飽き飽きだろう?」
ニヤッと笑うダンだが、それに対してラグナスの危機センサーが発令する。
「ダン、抜け駆けはやめたまえ、第一君のような脳筋に九重は似合わない」
「ほう、自分が似合うと言いてえのかな?、引きこもりの鳥が、九重はまだまだ若い、俺とともに外に飛び出すべきだ」
またしてもダンは嗤ったが、今度は攻撃的な笑みだ。
本来笑顔は攻撃的な、獣が牙を剥く行為が原点とされるが、まさしく今のダンの笑顔もそうだ。
「ダン、貴方に賛成ですが、連れ出すはあなたの役目ではありません」
いやにテンポよく人が来るが、今度はエルナとヴィウスだった。
「あなたの道は自由過ぎるアウトローな道、九重は剣術の師匠たる私が正道に導きます」
「剣術の、師匠なら、私もそう」
負けじとクインシーがエルナを睨み、右手は剣の柄を握り、左手もすでにもう一人の剣士に向けて翳している。
「あなたは無理やり九重の師匠になったのでしょう?、私はしっかり本人からの願いに
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