東に位置する大陸港、そこはアメイジア大陸全土で見ても他に類を見ない規模の大きな港町。
大陸全土に出荷される様々な魚介類がここから獲られるという、まさしく大陸規模の港町だ。
「・・・とまあ、そんなわけで大陸港はなかなかに広い」
ルクシオンの艦橋で、ラグナスの説明を受けながら九重は頷いた。
「でもあの触手があるならすぐに見つかるんじゃないの?」
小瓶の中にあるヴィウスの触手は今もジタバタと元気に蠢いている。
「そうだね、けどヴィウスは本来海の中を専門にする英雄、もしかしたら海底深くにいるかもしれない」
そうなると相手取ることができない、交渉の席につくことすら出来ないわけだ。
「ただしこの季節大陸港の湾には夜行性の電気クラゲが現れている」
電気クラゲ、その毒はあまりに強く、刺されると死にはしないながらも、長時間痺れてしまい、活動出来なくなるらしい。
「ヴィウスもこれはわかっているはずだから、少なくとも夜になれば陸に上がるはずさ」
なるほど、つまり夜になってから行動し、ヴィウスを見つけるというわけか。
「ただしそれは僕らを狙う勢力も同じこと、ヴィウスが陸に上がると察して出てくるかもしれないね」
エルナは禁軍との戦いで見た敵対勢力の正体、すなわちエディノニアの騎士のことを話そうかと思ったが、やめておいた。
少なくとも九重はエディノニアは味方だと思っているだろうし、まだ確定的でない情報では味方を混乱させるおそれもあるからだ。
「今回もエルナとリエンに九重きゅんの護衛は頼もうと思う、ツクブはルクシオンで待機するように」
夜になるまでは長い、九重は少し思うところがあり、エルナに話しかけた。
「あの、エルナお姉ちゃん、お願いがあるの」
「珍しいですね、何ですか?」
エルナは優しげな笑みを浮かべ、九重と目線を合わせた。
「僕に剣術を教えて欲しいの」
なるほど、エルナは九重の瞳を見て何故そんなことを言い出したのかを察した。
ツクブの時も、禁軍のときも、九重は英雄に守られてばかりいた。
まだまだ幼いながら九重も男、守られてばかりいることに納得できないのだ。
「・・・君の言いたいことはわかりました、やはり君も男の子、私の時間があるときに技を授けましょう」
喜色を浮かべる九重だが、エルナはちちっ、と指を振った。
「ですが私の剣術はあくまで相手に合わせて逆転の一手を狙う、謂わば守りとカウンターの剣術、男の子には些か退屈かもしれませんよ?」
実はエルナは極めて攻撃的に攻める剣術の使い手を知っているが、何も言わなかった。
「それでもいい、自分の身くらい自分で守りたいんだ」
どうやら決意は十分のようだ、いまから夜まではまだまだ時間もある、基礎訓練くらいは出来るだろう。
「・・・では九重、ルクシオンの甲板に行きましょうか、そこならば剣も振るえますし」
九重はすぐさま頷くと、エルナとともに甲板に向かった。
「・・・リエン、だっけ?」
九重がエルナとの訓練に出ている時に、ツクブはリエンに話しかけた。
「・・・何かしら、泥棒猫さん?」
露骨に話すのが嫌そうに冷たい瞳をツクブに向けるリエンだが、ツクブはスルーして話しかける。
「あの遺跡で見ていたけど、あなたの剣術、姉さんのものに少し似ているわ」
否、その言い方は正確ではない。
正確にはエルナの剣術に攻撃的なアレンジを、もしくは攻撃的な剣術にエルナの剣術をミックスさせたかのような剣術だった。
しかももう片方の攻撃的剣術にもツクブは見覚えがあった。
「その剣、どこで学んだの?」
「・・・誰でも最初は師匠から学ぶ、私の場合師匠がその剣術の使い手だった、ってだけよ?」
リエンはそう答えたが、ツクブはその返答が正確ではないことを直感的に察した。
おそらく彼女の師匠があの剣術を使っていたのは事実だろう、だがエルナともう一人、ツクブの知る人物の技に似た剣術を使う人物がいて、今まさに行動を共にしている。
このような偶然はあるのか。
「疲れたわ、夜まで眠るわね」
話しは済んだとばかりにリエンは手を上げて艦橋から立ち去って行ったが、ツクブはまだリエンの剣について考えていた。
「・・・さて、こんなところでしょうかね」
夕方、エルナはそう告げて九重の稽古を打ち切った。
「基本はだいたいそんな感じです、今はまだ繰り返しその型を練習して下さい」
「わかりました、師匠っ」
元気よく返すと、九重は早速足捌きや剣の構え、さらにはそこから繰り出す技の型を練習し始めた。
「・・・(才能はまずまず、しかし今あの勇者と戦えば確実に負けますね)」
守り主体、それも九重のように真っ直ぐすぎる性格の人間にはあの勇者の剣は棘が多すぎる。
「・・・(や
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