『七大英雄、彼女らは歴史的に大きな影響を後に与えたにも関わらず、信頼できる当時の資料は少ない。
山岳地方より来た英雄ラグナスは、古き時代の忌まわしき禁忌の術を改良し、魔物を取り込み己が力とする同化秘技を編み出した。
これは魔物に影響を受け、意識を変質させられる可能性こそあったが、魔物を取り込めば取り込むほどに力は増し、結果魔王にすら匹敵する力を得た。
砂漠より来た英雄エルナと、その妹ツクブはラグナスとともに魔王と戦うことを決意、ハーピー属を主に取り込みセイレーンに酷似した姿となったラグナスに対して同じく魔物を取り込み異形となる。
エルナは、ドラゴンやリザードマンを取り込んでドラゴンの姿となり、ツクブはスケルトンやゾンビ、さらにはウィルオウィプスなどの死霊も取り込み、リッチの力を手にした。
その後海洋より来たヴィウス、東方より来たクオン、草原を旅するダン、古代都市のクィンシーの七人を併せて七大英雄と呼ばれるようになる』
ーーーーー以下エディノニア帝立桜蘭大図書館所蔵『七大英雄の研究』第1章より抜粋。
「驚いた、でしょう?」
祭礼の渓谷にあるエルフの館の一部屋でリエンと九重は向かいあっていた。
現在リエンは現代にいたような姿ではなく、リリムらしい露出の多い格好に、背中には同じくらいの長さの剣を二本十字に背負っていた。
九重にしても、中々目のやり場に困る姿だ。
リエンは様々なことを九重に話していた。
七大英雄と魔王の戦い、アメイジア大陸の空間移動、その後何代かを経て魔王が変わり今は魔物も人間を殺めないことなどだ。
だが中でも九重を興奮させたのは、ここがファンタジーな異世界であることだった。
「悪いことをしたとは思っているけど、貴方の力がないと七大英雄を平定させることは出来ないの」
すっと目を伏せるリエン、九重はそれに対して笑顔を見せた。
「いいよ、僕でないといけない、何か理由があるんだよね?」
リエンは頷いてみせたが、今は理由を話すことはできないのか、じっと黙ったままだった。
「よう、二人とも」
部屋に先程のドワーフの少女、ギムが入って来た。
「俺はギム、アダマニウム鉱山のドワーフだ、七大英雄相手にどこまで通用するかはわからねえが、いろいろ用意したぜ?」
そう言うと、ギムは部屋にある机の上に様々な物品を並べた始めた。
「こいつはミスリルで出来ている鎧とヘッドギアだ、炎は跳ね返すし、大抵の武器じゃ束になっても傷一つつけられない代物さ」
九重は銀色をした東洋風の鱗鎧を持ち上げてみたが、外見に反して驚くほどに軽い。
「こっちは天空の神ウラノスすらも斬り裂けるアダマンタイトで出来た剣、クロノキャリバーだ」
続いての大剣は透き通るような輝きを秘めた業物である。
「こいつは今やアダマニウム鉱山のドワーフにしか加工できねえ、感謝しろよ?」
ニヤニヤ笑いながらギムはそう言うが、ふと表情が暗くなった。
「なんでも防ぐ鎧になんでも切れる剣、これがあっても七大英雄と戦うにはまだ勝てねえ気がするぜ」
心配そうなギムだが、リエンは穏やかに微笑みながら九重の肩に手を置いた。
「私たちは戦うのではなく、対話に行くの、きっと九重ならばその勤めを果たしてくれるはずよ?」
「ま、とにかくドワーフとしては協力出来るのはこんなもんだな」
ギムはそう告げると鼻をこすった。
「しっかりな坊や」
直後、かちゃりと扉が開いてエルフの族長レオラが入室してきた。
「私はまだ貴方を信用したわけではないわ」
冷たい眼差しでレオラはリエンをついで九重を値踏みするかのように見つめた。
「ただ他に七大英雄に対する策がないから貴方を行かせるに過ぎない」
高圧的に話すレオラに、リエンだけでなくギムまで表情を険しくしたが、何故か九重はじっとレオラの顎を見ていた。
「・・・少年、何か?」
怪訝そうなレオラに九重は首を傾げた。
「お姉ちゃん、何を怖がってるの?」
「・・・っ!」
九重の一言は予想外にレオラに打撃を与えたようで、彼女の顔つきは目に見えて引きつった。
「恐れ?、エルフの族長たるこの私が、何かに恐れを抱いていると?」
「うん、僕の弟も怖いものを見たりすると顎に皺が寄るんだ」
つん、と九重は自分の顎を指差した。
「・・・このレオラが恐れることなどない」
吐き捨てるように言うと、レオラはリエンに羊皮紙の地図を投げ渡した。
「七大英雄筆頭、ラグナスの乗る高速飛行戦艦ルクシオンが祭礼の渓谷南方の山に現れたわ」
伝説ではルクシオンは魔法機関タキオンリアクターにより高速移動と永久的な駆動を可能にしているため攻略は困難、一万年前も猛威を振るったそうだが。
「現在は停船中、チャン
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