遠い遠い、遥かな昔、まだ魔物が太古の姿を保っていた時代。
当代の魔王であるメルコールは、世界を闇に包まんと行動を開始した。
人間たちはなすすべもなく蹂躙され、当時最大の大陸であったアメイジア大陸は、醜悪にして邪悪な魔物によって、支配された。
だが、アメイジア大陸を救わんとする一つの希望が現れた。
人間でありながらも魔物と同化し、その力を制御することに成功した七人の英雄が、魔王を倒すために立ち上がったのだ。
魔王との戦いは熾烈を極めたが、どうにか七人は魔王を倒すことに成功した。
だが、魔王もただでは死ななかった。
死の間際に時間と空間を捻じ曲げ、アメイジア大陸をそこに住む人ごと時空の狭間に突き落としたのだ。
英雄たちは最後の力を振り絞り、大半の人間を他の大陸に逃がすことに成功したが、結局救いきれず、アメイジア大陸は空間の狭間に封印された。
それからおよそ一万年後、七人の英雄の物語もアメイジア大陸の封印も、みんな忘れ去った頃。
「行ってきまーす」
西暦2000年代の日本のとある街、一人の少年が家を飛び出した。
彼の名前は雨月九重(あめつきくのえ)、この街でごく普通に暮らす小学生だ。
その日も通学路を通っていつも通り小学校に行く、ハズだった。
「あれ?」
通学路の途中にある公園、そこに少女が倒れていた。
何事かと思って九重が近づこうとして、違和感に気がついた。
公園の真ん中に倒れているにも関わらず、誰一人として、少女に近づこうとしていないのだ。
奇妙な感覚に九重は背筋に寒いものが走ったが、結局少女に近づいていた。
「あの・・・」
声をかけられ、微かに少女は身を起こし、九重のほうを見た。
「えっ・・・」
絶句する九重、無理もない、倒れていたときには見えなかったが、少女は凄まじい美人だったからだ。
テレビの下手なアイドルや、巷に溢れる歌手も問題にならないような美人だ。
「(うっわ、おっきいな・・・)」
ついでに九重は少女の特定部位、つまるところ布地越しでもよくわかる豊満な胸に、視線を向けてしまっていた。
「・・・やはり、あなたね」
少女はゆっくり立ち上がると、屈んで九重と目線を合わせた。
「ここでは初めまして、かしら?」
不思議な言葉だ、九重はどきりとした。
「あの、どこかでお姉さんと・・・」
「いいえ?、初対面のはずよ?」
ふふっ、と少女は悪戯っぽく笑って見せた。
「私はリエン、あなたは?」
「あ、雨月九重、です」
ドキマギしながら九重が答えると、少女リエンはくすりと笑った。
「ええ、そうよね、『たしか』・・・」
「?」
九重は頭がはてなになってしまったが、リエンはちらっと後ろの道路を眺めた。
「九重くん、そろそろ急がないと遅刻するわよ?」
「あっ」
色っぽいお姉さんのことで頭が一杯で忘れていたが、今から通学するところだった。
「そ、そうだった、じゃあ、おねえさん、またねっ」
軽く手を振ると、九重は通学路のほうに走っていった。
「・・・雨月九重」
結局九重は遅刻することはなかった。
だが、授業中に考えることは、公園で出会ったあの綺麗な女の人のことばかりだ。
「(きれいなひとだったな、あのあたりに住んでるのかな?)」
「・・・き、雨月っ」
「えっ、はっ、はいっ」
いきなり担任に名前を呼ばれ、九重は素っ頓狂な返事を返してしまった。
「この問題を答えろ」
黒板には算数の問題が書かれているが、リエンのことを考え、話しを聞いていなかった九重には理解出来なかった。
「えと、その、わかりません」
「・・・もう良い、廊下に立ってなさい」
頭の中はリエンのことで一杯、そんな状態ではとても授業どころではない。
さて、給食の時間、そんな様子はおかしいと思ったのか、隣の席の少女、安部瑠璃は九重に話しかけた。
「九重くん、なんだか今日変じゃない?」
「・・・変なんかじゃないよ、僕はいつもどおりだよ?」
食事をしながら九重はそう呟く。
「・・・みそ汁にみかんなんかつけてどうするの?」
瑠璃の言葉に九重ははっとしてしまった。
給食のみそ汁の中に、皮を剥いていないみかんを浸し、今まさにそのまま食べようとしていたのだ。
「うわ、わわわわわ・・・」
「ねえ、何かあったの?」
じっと瑠璃は九重を見つめた。
安部瑠璃、クラスのアイドルで隣のクラスにもファンがいるという超絶美少女、本来ならばそこまで心配されたら男冥利につきるかもしれないが、今の九重には無用の長物だった。
「ほんとになんでもないよ」
九重はそう告げ、紙パックの牛乳を飲もうとしてぐしゃりとパックを潰し
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